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 孤狼のような雰囲気を漂わすこの男に、旅の連れがあるということも意外だが、その連れの顔を注視して、店主は再び息を呑んだ。  ――これは少女だろうか?それとも少年だろうか?  隠されるように立つ連れは、中性的な顔立ちをしていた。  亜麻色の長い髪、薄菖蒲(うすあやめ)の瞳、白磁の肌。出自の高さを匂わす相貌だ。男のマントの影から宿屋の中をぐるり見回す無邪気な顔つきからすると、宿屋に泊まるという行為はおろか、<都>から出るのも初めてなのかもしれない。  さらさらと肩口にかかる髪は耳の横の鬢だけ、小さな房に纏められている。その綾織りの飾り紐は見事な染めあげの浅葱色で、紐の先に揺れている穴の開いた七宝細工は、恐らく<都>の匠の手によるものなのだろう、室内の暗い照明ランプの下ですら、その手仕事の精巧さが窺える。  纏う旅装もマントひとつとっても、男のものとは比べ物にならぬほど上質なものと見えた。白いなめし革のそれは、恐らく男のマントより余程雨を弾いたことだろうが、そのように使われることのないまま下ろしたてのようにまだ、乾いていた。
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