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第2話 託サレル
神助は、転んだ拍子に脳震盪のようになった。しかし、目の前では、光太に、何人かが群がろうとしている。神助が慌てて起き上がり、光太に駆け寄ろうとした瞬間
「ぐわっ」
その足首に激痛が走った。
男が一人、神助の足首に噛みついている。肉が噛み千切られる感触。痛く、熱く、傷口から恐怖が這い登ってくる。しかし、それと同時に、押さえきれない怒りが胸の奥から噴出してくるのを神助は感じた。
「ふざけるなあああ!」
神助は足にかみついている男を何度も足蹴にし、光太に駆け寄る。うつぶせに倒れた光太の肩や腕に数人がかみつき始めている。
「うおおおお!」
神助の口から洩れた叫びは、神助のものではなく、駅構内に響き渡った。その声に、駅の群れのそこかしこで、うつろな瞳のままでも、ぎくりと身をこわばらせる者たちもいた。
神助は、光太に群がる数人に組み付くと、殴って光太から引き剥がし、蹴散らし、髪をつかんで投げ捨てた。それから、光太を引きずるように改札へ向かう。一〇メートル、五メートル、三メートル……
あと数歩で走り抜けられる、と思った瞬間、神助と改札との間に、十人ほどの人間が飛び出してきた。皆、目はうつろで、口元や手に血糊がべったりとついている。
「この野郎ぉおお!」
神助は、光太を床に寝かせると、正面にいた女に蹴りを入れた。べきっと、ろっ骨が折れるような音がし、後ろにいた男もろとも吹っ飛ぶ。
そのまま、ベンチを振り上げ左右の男達に振り下ろすと、ぐしゃ、べしょっと、頭や顔の骨が砕け、ベンチはバラバラになった。
残り四人。改札が見えてきたその時。
「ぐうっ」
神助の左肩に後ろから噛みついた人間がいた。先ほど光太から引き剥がしたうちの一人だった。
「くそがぁああ!」
首を締め上げるように捩じって打ち捨てるが、左肩の肉も一緒に齧り取られていく。
そのすきに前にいた四人が、わっと神助に群がり、神助の腕や足に齧りついた。
「ぐわああ」
四人がかりで引き倒されそうになったとき、急に神助の後ろにいた一人ががくっと膝折れた。
「神……助……」
光太が、這ったまま、壊れたベンチの脚を男の脚に突き刺していた。
脚を刺された男が、光太に襲い掛かり既に肉がえぐられ、骨が露出した肩に再び噛みついた。
「うわあああ!」
「やめろー!」
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