第2話 託サレル

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病院の廊下で着信音が鳴った。 出たくない、と神助は感覚的に感じた。家族の誰とも連絡が取れていない状況で、こちらからは何度も連絡を取ろうと電話したのだから、すぐにも出るべきだというのに。何故だか、いつものベルの音が、不思議と粘着質な音に聞こえた。昼間の事件のせいだ。一切考えたくないが、映像と音と匂いがいつまでも離れてくれない。 「父さん?」 電話の表示に少しホッとし、電話に出たというのに、父の声は聞こえない。 「もしもし? 父さん?」 「……神助」 うっすらと聞こえた父の声にホッとすると共に、明らかにおかしいその様子に、先ほどまでの事件が重なってしまう。朝、出かけた切り電話がつながらなかった父には、何も話せていないが、どこかからか連絡が行ったのだろうか。 「お父さん、日暮里駅の事件きいた? 早く帰ってこれないかな?」 「事件?」 「僕、巻き込まれたんだ。光太は昏睡状態で」 「……どんな事件だ?」 父の声は、事件への驚きなのか、益々掠れて殆ど聞き取れなかった。 「人が人を食べ……た……信じられないかもしれないけど」 電話の向こうで息をのむのが聞こえた。 「お父さん? もしもし?」 カーラジオからニュースが流れるのが聞こえたが、暫くしても荒い息遣いだけが聞こえる携帯に、神助は呼びかけた。 「父さん、僕、また途中から記憶がないんだ。僕ばかり巻き込まれて、でも、僕はいつも無事で」 神助の必至な声にも、父は答えず、荒い息が聞こえてくるばかりだ。 「僕、怖いよ、何が起こってるのか、なんで僕ばっかり巻き込まれるのか……」 「神助……頼みがある」 「え?」 自分の問いには全くかみ合っていない父の返答に、神助はひどく困惑する。 「氷川神社に来てくれ」 「え、いつ?」 「今すぐだ」 「い、今?」 命からがら逃げてきたというのに、もう外に出かけたくなどない。もうすぐ、日も傾く。逆に、病院に迎えに来てほしいというのに、父は何を言い出すのだろう。 「で、でも、僕」 「お前にしか、頼めない……」 「迎えに来てよ。うちじゃダメなの?」 「……ダメだ。今すぐ」 「やだ、いやだよ」 「頼む……時間が……ない」  父の声がどんどん弱っていっているのが電話越しにもわかる。これ以上、話続けてはいけないんじゃないか? 父も何かに巻き込まれたのじゃないか? 不安がどんどんと大きく神助の心に広がっていく。
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