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新宿駅。
世界一乗降客の多い駅、つまり世界一ストレスが多い駅だ。高校に行くのに毎日こんなところで乗り換えなきゃいけないなんて最悪。
天佑(てんゆう)神助(しんすけ)は、毎日そう思いながらホームで電車を待っている。
ホームに突風と共に、電車が滑り込み、電車の窓には人がべったりと張り付いている。いつものことだと思ったが、よく見ると様子が違う。乗客の顔は、混雑への不快感というより、恐怖にひきつれている。
「ぎゃあああ」
扉が開くと同時に、悲鳴が溢れだし、神助の足元に人が雪崩のように崩れ落ちて来た。
「うぐっ」
慌ててよけた神助の横に倒れ込んだ初老の男性を後から出てくる乗客が踏みつけ逃げていく。
「あ…」
助け起こそうと神助は一瞬手を伸ばしかけたが、折り重なるように人が次々と倒れ、その人々を容赦なく後から来る人が踏みつぶして行く。
「うあああ」
神助の前にいたサラリーマン風の男が、思わずという感じで後ずさった。
電車内から血まみれになった数人の男女が、掴みあいながら、もつれる様に転げ出て来たのだ。
「ざけんな、こらぁ!」
「おめぇだよ!」
殴りかかった大学生くらいの男に、顔から血を流した中年の男が蹴りを入れる。
蹴りを喰らい後ろに倒れ込んだ男が列に並んでいたカップルにぶつかると、そのカップルが怒りも露わに、大学生風の男を羽交い絞めにしたところに、中年男が再び蹴りを入れた。
「げふっ」
口から血を吐きだした男に、それでも中年男やカップルが殴る蹴るの暴行をしている。
「ぎぇえええ」
怪鳥の様な叫びが聞こえ、振り返った神助の目に、電車からもつれて出て来た女子高生の腕に噛みつく中年女性が見えた。噛みつかれた腕からは血がにじみ出ている。どちらも服が破け、髪はぐしゃぐしゃで電車内からつかみ合いの喧嘩になっていたことが見て取れる。
同じような騒動は他の車両でもおきており、ホームに広がって、電車に乗り入れようとしていた乗客も巻き込んで、暴動の様な騒ぎが広がっている。
「何やってるんだ、やめなさい」
駅員が二人、踏みつぶされている人たちを助けようと走ってきた。
「ぎゃ」
「うあ」
ところが、駅員はすぐに乗降客に取り囲まれ、殴る蹴るの暴行を受け始めた。
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