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「なん……」
神助は、余りのことに言葉が出ず思わず後ずさると、ずるりと何かに足が滑り、尻もちをつく様に倒れ込んだ。
「ひっ」
神助の尻の下には、先程の大学生風の男が血まみれで倒れており、辺りは血の海となっていた。
「あ……あ……」
この男ともめていた中年とカップルは別の数人とそれぞれ取っ組み合い、髪をむしり、血みどろの喧嘩に発展している。
「うわあああ」
叫び声の上がった方を見ると、駅員が二人、数人に担ぎあげられるようにされ、反対側のホーム下に投げ落とされるところだった。
「や……やめろー!」
悲鳴のように叫んだ神助の腕を、男女が両方から取り、初老の男がステッキを振り上げ、神助は目を見開いた。
× × ×
「おい、神助、聞いてる?」
「えっ?」
「早く弁当食おうぜ」
神助は、垂れ目の西(にし)光太(こうた)の顔をまじまじと見上げた。
(ここは……どこだ?)
神助は目を光太から外すと、辺りを見回す。黒板、椅子と机、クラスメート
「教室?」
「はあ? お前、やっぱ今日頭かなんか打ったんじゃねぇの?」
「頭打ったって? どこで?」
「おいおい大丈夫かよ。新宿駅に決まってんだろ?」
何の話だろうと思いながら、神助は鞄から弁当を取り出した。
「うわー、すごくね?」
神助の弁当箱の中身はシェーカーで振ったかのように、ぐちゃぐちゃになっている。
「神助、やっぱ階段から落ちたとかじゃね?」
× × ×
弁当を食べ終える頃には、神助は、今朝からの大体の流れを光太から聞き終え、スマホでニュースを見た。
「今朝、新宿駅で起きた事件では、死者十一名、重傷者五四名……」
アナウンサーが告げている死傷者の数は、大規模災害かテロ事件の様な凄さだ。
「何で僕、これ知らないんだろ」
「こっちがそれを聞きたいよ。今朝、お前が来ないって学校中大騒ぎだったんだから」
「やっぱ頭打ったのかなぁ」
「医者に診てもらった方がいいんじゃね?」
「別にどこも痛くはないけど」
「でも、いっつも制服きちんとしてんのに、結構擦れてんじゃん?」
光太に言われて神助が自分の腕や足をみると、擦れたような痕や、黒っぽく汚れた場所がある。
「なあ、その黒いのって血じゃね?」
「血?」
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