0人が本棚に入れています
本棚に追加
その言葉に、何かがぞわりと神助の背を上り、何かの映像が脳裏を過った気がした。しかし、今朝の事件や「血」という言葉に関連づく様なことを、神助は全く思いだせなかった。
「今朝、新宿駅で電車待ってて……その後、僕?」
× × ×
神助と光太が河川敷の道を歩いてくる。
「今日の一万メートル、マジ死んだわ」
「駅伝大会、そろそろメンバー決めだからね」
「神助は確定だろ。俺、ぎりだわ。三年は受験だし、二年は高校ラストだから必死だろうしなあ」
神助と光太が、自転車を出す横では、サッカー部がまだ練習をしている。神助達の高校では、陸上部とサッカー部が花形だ。いずれも厳しい練習とはいえ、ひたむきに走っている高校生たちの目は生き生きとしている。
「平和だなあ」
「お前、今日の事件の後、よくそんなこと言えんね?」
「いや、だって、覚えてないし……うわっ」
神助の、のんびりとした声と裏腹に、目の前に勢いよく飛んできたサッカーボールを間一髪でよけると、ボールは草むらへ転がって行った。
「神助君、九死に一生!」
「大げさでしょ」
「そのきれいな顔や賢い頭は守らなきゃあ」
「キショ!」
しなを作るような光太のポーズに、神助は、笑いながらボールを 拾いに行ってやる。
「光太の母ちゃん、明日帰るんだっけ?」
ボールをサッカー部に投げ返しながら、神助が聞く。
「2時に日暮里駅まで迎えに来いってさ」
「今日、うちで晩飯食うでしょ?」
「うちの母ちゃん、神助んちに甘えすぎじゃね?」
「今更。もう十年このスタイルだろ」
「おふくろの味は、ほぼ神助んちの飯だわ」
「で、家帰る前に、どこ行く?」
神助のうちでいくらおいしい食事が待っていようが、部活の後、光太と駅前のコンビニやファストフードによるのは日課だ。朝、早弁、昼の学食、購買のパン、コンビニかファストフード、夕飯。1日6食食べても全く太らないくらい新陳代謝も活動もしているのだから、これは暴飲暴食とは言わないだろう。
「もうすぐ、節分かあ」
コンビニに足を踏み入れると、恵方巻の広告が店内に溢れかえっている。
「節分間近に帰ってくるとは、うちの母ちゃん、さすが鬼ババア」
「駅で豆まくなよ」
と、神助が笑いながら、おにぎりに手を伸ばした瞬間、横から伸介を突き飛ばすように若い男が棚の前に来ると、神助が手をかけたおにぎりを毟り取った。
最初のコメントを投稿しよう!