第1話 暴レル

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「なっ」 温厚な神助もさすがに、むっとし、男の方を見たが、男の目は妙にうつろになっている。 (なんかクスリでもやってるヤバイ奴かも) と、関りを持たないようにと横にずれた途端、どんっと横の女性がぶつかってきた。 「ちょっと……」 神助の言葉が聞こえないかのように、ぐいぐいと神助を押して棚の商品を取ろうとする。 (何だ、これ? この感じ、どこかで……) 神助が考えをまとめようとしたとき 「っだよ、出られねえだろ!」 苛立ったような光太の声が聞こえ、神助は振り返った。 コンビニの出入口に人が詰めかけている。気づけば店内も人でごった返し始めている。 「光太」 光太の横に人をかき分け、何とか辿り着く。 「何なんだよ、これ。朝のラッシュか」 ドクン! と頭に一気に血が上るのを感じた。 朝のラッシュ。 そうだ、これは今朝の…… 断片的な映像が、神助の脳裏に蘇る。 殴りあう若い男と中年。 踏みつけられ潰れる初老の男の顔。 噛みつかれ泣き叫ぶ女子高生。 血の海。 「うわあ!」 神助が叫び、目を見開くと、コンビニ内は朝のホームと同じように、騒乱状況になっていた。 「何だよ、これ暴動じゃん?」 暴動。 光太はそう表現したが、そんな生易し い言葉では表わせなかった。 「うめぇ、うめぇ」 「裏の倉庫にまだ食べもの……」 床に座り込み商品を貪り食う老若男女。カウンター内に入り、温熱器の中の商品に手を出す客。店員はとっくに逃げだしたようで、見当たらなかった。 「出れねえよ」 光太の声に我に返ると、店内はすし詰め状態だというのに、出入口は押し掛ける人でふさがれ、正にラッシュ時の電車の乗降口そのものだった。 「うっ……」 神助は、嘔吐感と共にめまいを感じた。 何だろう、これ。似た感じ、どこかで…… 朦朧とした意識の中で、考えを纏めようとするが、思いだせそうで思いだせない。 「おい、神助、これやべえよ」 光太が神助に声をかけた瞬間だった。 ガッシャーン! 大きな音と共にガラスが粉々に砕け散った。 光太は目を疑ったが、神助が、マガジンラックを窓に投げつけ、割ったのに間違いなかった。 「いでっ」 次の瞬間、神助は、光太の腕をつかむと、力任せに、割れたガラスから外へ飛び出し駆け出していた。 「し、神助?」
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