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運動神経は抜群だし、頭もいい。なのに、良く言えば無私無欲、ガツガツしたところのない、いかにも坊ちゃん育ちな、悪く言えば自分の意志や目的なんか丸っ切りなさそうな親友が、こんな獣じみた行動を取ることが光太には信じられなかった。しかも、この顔……、いつもの、クールとも思えるような淡々とした神助とはまるで別人だった。
だが、その間髪入れない脱出劇は正解だった。神助と光太が走り抜けた途端、出入口同様、ガラスの割れた部分に人が大量に押し寄せ、腕や顔が切れるのもお構いなしに店舗へ雪崩れ込んだのだ。ほんの少しでも遅ければ、朝のホームで踏みつぶされた人々と同じようになっていただろう。
ガッシャーン!
パリーン!
神助がコンビニのガラス壁を割ったのが合図になったかのように、コンビニの他のガラスや、隣のスーパーでもガラスが割られ、暴徒と化した人々が押し寄せていた。
よく見れば、隣のスーパーでも、客同士が棚の商品を取り合ったり、惣菜をその場で開け、食べだしているのが割れたガラス扉から見えた。
「止まれ、警察呼ぶぞ!」
中年女性が、食品を山のようにカートに積みスーパーから走りだしてきたのを追って店員がその肩に手をかける。
ガッ!
振り向きざまに中年女性は、酒瓶で店員を殴り倒し、瓶が粉々に砕け散った。中年女性は、その暴力的な行動とは裏腹に、口一杯に焼きそばを頬張っており、溢れるのも構わず手づかみで更に口に詰め込んでいる。明らかに常軌を逸していた。
「な、なんなんだよ」
光太が言うか言わずのうちに、他の客が中年女性に群がり、食品を奪い合ったり、その場で封を開け貪るように食べ始める。食品の奪い合いで、徐々に殴り合いまで始まりだした。
治安の悪い外国で暴動が起こった時の映像でも、こんな情景は見たことがなかった。散乱した食品や酒の匂いに血の匂いまで入り混じりだし、気持ち悪さが増してくるようだった。
神助は、コンビニから百メートルばかり離れたところまで一気に走ると足を止めたが、まるで、自分の店の焼き討ちにあったかのような、怒りと恨みが混じったような瞳で睨むように騒ぎの起こっているコンビニやスーパーを見つめている。
「し、神助、もう行こうぜ」
光太に引きずられるように、神助はその場を離れて行った。
× × ×
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