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担任が入ってくると目を合わさず、
「天祐、今日は家に帰りなさい」
とだけ言って黒板に向かった。
「え、で、でも」
「タクシー代は出すそうだ。早く校長室に行け!」
担任は、振り向きもせず、廊下を指さした。
× × ×
校長から、全校生徒の安全だの、学校としての規律だの、よくわからない遠回しな話をされて、しばらくの自宅待機を言い渡された。
学校を追い出された神助が、玄関の前に立つのと同時に、中からドアが開いた。
「あっ」
ひどく驚き、続いて見たこともないほど気まずそうに俯いた、母の顔がそこにあった。ドアは、神助を迎え入れるために開かれたのでは、明らかに、なかった。
「……神助」
「あの……しばらく学校に来るなって」
母の顔が、まずいものを押し付けられたというように歪んだ。
「神助、母さんと竜助は母さんの実家にしばらく行くことになった」
母の後ろから竜助を連れて出てきた父が言った。
「え、それって……」
「昨日からの事件、物騒だからな。しばらく田舎の方に……お前は、春の大会があるだろう?」
僕はどうなるんだ、という気持ちが、父を見た眼に表れていたのだろう。父は取ってつけたように、大会のことを付け加えた。
「新幹線まで送ってくるから」
早くこの場を離れたいと言わんばかりに走り去る車を見送りながら、神助は胸に涙がたまっていくのと同時に、静かな怒りがふつふつと湧き上がってくるのを感じていた。
× × ×
やけに疲れ、うとうととして目を覚ますと、光太から「休み、いいじゃん! ノート貸してやるよ」というメッセージが届いていた。
家族すら離れて行った自分を、光太だけは変わらず見てくれている。たった一人でも、そんな相手がいるのは無性に嬉しかった。
昨日の事件は、新宿駅での狂暴化も、コンビニやスーパーでの暴徒化も終息していた。しかし、暴徒化した人々は、ぼんやりと何をしていたかの認識はあるものの、何故そんなことをしたのか皆目見当がつかないらしかった。それをいいことに、ワイドショーでは、パフォーマンス説や催眠術説、細菌説など、勝手な憶測が面白おかしく語られていた。
結局、何だったのだろうか? テレビのリモコンで次々にチャンネルを変えていくと、どこかの駅構内が映し出され、人が何かに群がっている映像が流れた。
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