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「カメラでは、よ、よくわかりませんが、ひ、人が人を食べて……る?」
普段からやや活舌の悪い女性リポーターの声は完全に引きつれ、どもってしまっている。
だが、そんなことより、神助は画面の「LIVE 日暮里駅」の表示に硬直した。
「日暮里駅まで迎えに来いってさ」
神助は、光太の言葉を思い出し、自転車に飛び乗った。
(馬鹿な、そんな馬鹿な。何が起こってる? 僕はここにいるんだぞ。僕の周りで事件が起きるんじゃないのかよ!)
× × ×
何度も電話したが、光太は出ない。
日暮里駅周辺は、やじ馬でごった返していたが、自転車を止めた神助が、人をかき分け進むと、突然、目の前の人垣がざっと開けた。
顔面から血を流し、よろよろと駅からよろける様に出て来る人。
「ちょっと、やばいんじゃない?」
「おい、逃げた方が」
途端、駅前から人が逃げるように走り出した。その人の流れに逆らい、突き飛ばされながらも、神助は駅に近づいていった。
「人が、人を食ってる!」
今度は、腕に噛みちぎられた様な傷を負い、血を流しながら逃げ出てくる人とすれ違った。
怖い、怖い、怖い
未だに現実感は伴わないが、本能は死への恐怖に竦んでいる。それでも、人の流れに逆らいながら、駅構内に入って行く神助の足は、徐々に早まって行った。
「光太、光太どこだ!」
声を出していないと、苦しい。
「クリスピークランチ。サクサク触感がご馳走」という新しいスナックのポスターが何枚も貼ってある中を走って行く。走って行く途中、前方から走ってくる一団がおり、神助は身構えたが、それは先ほど中継をしていたレポーター達だった。女性レポーターの顔面は蒼白で、服が嘔吐物で汚れている。
「おい、そっちに行くな!」
カメラマンが振り向き言うが、神助は、震える脚で走るのを止められなかった。
改札を通り抜けると、人が群がっている山が幾つかある。
「ぴちゃ」
「ごりっ」
良く見えないが、何かを貪り食うような音が聞こえてくる。
群がっている人間の一人が振り返ると口元に血がべたりと貼りつき、虚ろな目が神助を見た。
「うっ!」
血が音を立てて引く感覚が自分でも分かる。
「く、来るなー!」
叫び声の方を見ると、光太が、何人かに追われている。
「光太!」
神助が振り返るのと同時に、光太は数人に追いつかれ、光太の腕にかみつく人間が見えた。
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