8人が本棚に入れています
本棚に追加
1
そして愛也は眠りについた――或いは、しかしというべきだろうか。
物心ついた時から僕らはずっと、生き続けて死にかけ続けて戦い続けた。
それがやっと、終着点を知ったというのに。
そんな中で彼女は、記憶を失った。忘れてしまった。
彼女の中の、彼女と彼らと彼女らと僕の、本来彼女が失くすはずのない――失くせるはずのない、大切で退屈なあの記憶を、彼女は失くしてしまった。思い返せば彼女は、失くし者の多い奴ではあった。
けれど僕は――僕らは、過信していたんだ。過ぎた信頼をしていた。その記憶だけは消えず、消せず、失くすことのできないものだと。
違ったんだ。間違えていた。
僕らが終着点だと思っていたそこは、実はスタート地点で――いや、もしかしたら分岐点だったかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!