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ブラック・ソード、垂直降下から水平飛行へ。エンジン、ラムジェット・モードからターボジェット・モードへ自動でシフトダウン。慣性で機体に叩きつけられるユウ。
「ぶみゃ!」と彼はまるでギャグ漫画のように機上でぺしゃんこにへしゃげていた。
「む、無茶苦茶しよる……」
「遊んでる場合か!」
「ひ、酷い……」
無情なケイの言葉に涙を浮かべるユウ。だが、ケイの言う通りでもある。やるべきを怠るのは遊んでいるのと何ら変わらないのだ。
流星が偵察任務の為に高度を落としてこちらに近づいて来るのが見える。不味い。ユウは思った。パイロットである小刑部黎明は、今この場で何が起きているのかを理解していない筈だ。ケイと黎明が何か交信していたが、ユウの耳には入らなかった。それ所では無い。おそらく、ケイでさえ解らないであろう、この危機感。同属だからこそ、か。アレは異常だ。
「クソッ! 生活用の分身体だってのに! やるしかねぇ!」
ユウは帰依する。化け物へと。
【月の時代は来た】
周囲の空気が一変する。黎明はそれを肌身で感じ取っていた。おどろおどろしい、重たい空。とてもここが空の上だとは思えない程、淀んだ空気。
【栄華を極めし死滅都市】
だが、今回はユウの身体には何の変化も起こらない。いや、起こり得るだけの質量が足りていないのだ。僅か二〇〇キロ。対するは数百トンは下らないであろう巨躯を持つドラゴン。仮に本体だったとしても分が悪い。
【横行跋扈す甘美なる奸謀】
機上から眺める黎明。
【争奪されし弑逆の王座】
唯一、ユウの見た目に変化があった。
【終わり無き大空位時代】
黎明は何故だろうか、そのユウの姿が何気なく目に入った。
【幽世を生きる永遠の皇帝よ】
ただ一点。瞳が紅くなったのだ。
【不滅なる我等が皇帝よ】
紅き瞳。
【約束の時は来た】
ああそうだ、ライトニングやタンガロアの瞳孔と同じ紅だ。
【玉座はそこだ、王位を掴め】
あれは――
【軍靴を鳴らし我等を誘え】
そう――
【永遠、終焉、その先へ】
恐怖の色だ。
【それは覇道か王道か】
化け物が化け物足る所以。
【何れの道も無下なりて】
恐怖そのもの――
【我等皆……】
ユウが最後の一節を読み上げる。
【この世界に在らず】
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