コドクノウミ

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 日本国、神奈川県横須賀基地から二〇〇海里沿岸。排他的経済水域(EEZ)限界付近の海域で、海上自衛軍、護衛艦隊第一護衛隊群旗艦、原子力航空母艦<あまぎ>を中心に複数の護衛艦が艦隊を組んでいる。その遥か高空で対異形発症体兵装が施された一二機のF-2E型戦闘機が空中給油を受けていた。海上自衛軍、航空集団第四航空群、第三航空隊所属だ。  空は薄暗く、日の出間近ではあったがどこか鬱葱としている。波は無く無風だがどことなく不穏な海。三日月が空に浮かんでいるがその存在は希薄であり、今にも朝霧の如く消えかかっていた。その隣に浮かぶ蒼褪めた月だけがひたすらにその存在感と異彩を放っている。  異様なまでの静けさがこの海を支配していた。高空を飛行している戦闘機(F―2E)のジェット音すら耳に付く程の静寂。まるで死んでしまったかのような静かなる海。日の出と共にその海域の全貌が露わになる。一面澄みわたった水面が朝日を照り返していた。それは、異常な程の透明度だった。生物の痕跡すらない程異常な光景だった。  この海域には生き物がいない。  この太平洋には生き物がいない。太平洋の生態系は回遊していたであろう大型の魚類から果ては原生生物に至るまで、その全てが死滅していた。海域の支配者によって洗い浚い、根こそぎ持って(・・・)行かれてしまったのだ。もう十年も前の事だ。銘入異形発症体(ネームドアパリション)、大洪水をも凌駕する破壊の権化“原初の襲来者”『スケイザルアゥ』。“それ”が率いる海洋型異形発症体(カファルジドマ)の現出によって太平洋の生態系は終わりを告げた。今やこの海は“それ”らが我が物顔で回遊している魔海と化していた。  一時期は日本の接続水域(基線より一二海里)付近まで“それ”らに攻め入られていたのだが、現在は概ね駆逐し、スケイザルアゥも公海へと撃退する事に成功していた。  この排他的経済水域は日本の防衛基準になっている。今後それ以上の侵略は断固として阻止すべきであって、この艦隊派遣もそれに追随するものであった。現在スケイザルアゥは活動期に入っている。獲物を求め、日本の排他的経済水域に何度も領海侵犯を繰り返していた。国家は、日本はこれを独力のみで迎撃、撃退しなければならない。  その澄みわたる深海に、敵である海洋型異形発症体(カファルジドマ)が潜んでいるのを先行していたP-1()異形()哨戒機が感知する。
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