コドクノウミ

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「中型のカファルジドマだ。一二体の急速浮上を確認した。こいつらは囮だぞ」先行していたF-2E戦闘機の第三航空隊長が指示を出す。「アルファ、ブラボーが先行してこれを叩く。チャーリー、デルタは降下後スケイザルアゥに備えろ。パワーダイヴ。エンゲージ」  六機の戦闘機が編隊を崩さずに高空より急降下。海面近くを亜音速で飛行する。目標まで一〇〇〇メートル。各機、空対潜ミサイルを二発、発射。その後急速離脱し次の攻撃に備える。発射された対潜ミサイルは五〇〇メートル飛翔後、弾頭である対潜誘導魚雷を切り離す。スーパーキャビテーション搭載のロケット推進魚雷だ。最大速度二五〇ノットの高速魚雷。一秒も経たない内に十二本の水柱が立った。  F-2Eの最高速度はマッハ二.〇。片やカファルジドマは種類によっては一〇八ノット(時速約二〇〇キロ)を超える化け物ではあったが、航空機が相手では概ね無力だった。カファルジドマに対空迎撃能力は無い。一方的な虐殺が行われる。  対海洋型異形発症体兵装とは、言うなれば対艦・対潜兵装と爆装を合わせたものに近い。カファルジドマ用に空対潜ミサイル(相手は潜水艦では無いがASROC(アスロック)艦対潜ミサイルを基に航空機搭載用に改良された為、分類上は“対潜”である)。スケイザルアゥ用に空対艦ミサイル(既存の二二式空対艦誘導弾)と、場合によっては空爆が行われる。今回はそこまで徹底した殲滅作戦では無かったので爆装はしていない。ある程度損害を与えて撃退する事がこの作戦の主だった任務だ。  銘入異形発症体(スケイザルアゥ)の完全撃滅となれば、それこそ海洋汚染を省みない核での攻撃が必要になるだろう。とある学説によれば、現存するネームドを全て核兵器によって撃滅した場合、それが純粋水爆だったとしても生物の生存に致命的な量の放射能汚染が発生するという。それでは本末転倒だ。なので、最小限の労力で最大級の成果をあげるには、この<撃退>という手段が最適解だった。  AA哨戒機が前方二キロの海域に超大型の反応を感知する。数百メートル級。 「さぁ、銘入りの御大将(スケイザルアゥ)の御出座しだ!」  チャーリー、デルタが機速を上げる。スケイザルアゥの現出に備え空対艦ミサイルを選択。
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