砂の籠

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 夏のことだった。  ひどく暑かった。  一人暮らしだったから、自宅には居たくなかった。クーラーをつけるにしても金がかかるし、扇風機もそう。窓を開ければやれ物盗りだ不審者だと騒がれる。一度それで、紺色の制服を着て手帳を持ったオニイサンにインターホンを鳴らされた。大丈夫ですか。お留守の際にはきちんと戸締りをしてくださいね。  難儀な仕事だと思ったものだった。  近くにコンビニもあったが、雑誌は一通り立ち読みしてしまうほどの時間を持て余していたし、あまりモノも買わないで冷房の恩恵にあずかるというのも気の引ける話だし、ということで、手近で風通しのいい場所を考えた私は、自然と公園のベンチに寄り付いたわけだ。ちびっこのはしゃいでいるのを見るのもいい。ちびっこのいない日はまた静かで、空間ごと存在を変えたような、その表情がまた愛おしかった。人間よりも雄弁なその場所が、こっそりと私は気に入っていた。     
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