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「本来、こういうことを君に伝えるのは、あまりよくないことだと思うんだけど。」そう前置きして話されたのは、彼の本職が警察関係だということと、私が、数年前にこの近辺で起こった一家惨殺事件の容疑者のひとりとして、マークされているということ。なんと唐突で突拍子もないことだろうと思った。活字でしか見たことのない言葉がずらりと並ぶ、違和感。
「ああ、ごめんよ。辛いだろうけど、周りの目があるからね、なるだけにこやかに、雑談めかして聞いてくれると、とても助かる。」
周りの目。彼は私を監視し、さりげなく情報を聞き出せるような関係になるために近づいたのだと語った。そして、彼以外にも私を監視している人間がいることをほのめかした。
「参りましたね。私、人を殺すような心当たりが一切。」
あはは、と彼は笑った。
「そうだろうね。僕も正直、君を疑うだなんてどうかしてると思ってる。だけどね、君の部屋から異臭があるとか、そういった近隣からの通報なんかがちらほらあったみたいで。」
もしよかったら、今晩、お邪魔させてくれないかな。
そうしてその晩、彼を自宅へ招き入れることになったのだった。彼に告白されたからかその日は異様に他人からの視線が気になったし、時々寒気がしたし、夏場に怪談をやるのにはこういう効果もあるのかもしれない、なんて思ったものだった。
もちろん、私の部屋には何もない。
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