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牙城院彗(がじょういん すい)は苦悩していた。
まさか、こんなにも早くこの日が来てしまうなんて。
やっぱり俺はおかしいのか?
って何自分のことを「俺」なんて呼んでるんだ? 昨日までは「僕」だったろ?
男になるって、こういうことなのか。
自然に変わっていくものなのか。
満ちたものが欠けていく感覚と、欠けたものが満ちていく感覚を同時に抱いた。
次の瞬間。
「うぁぁぁああ」
牙城院彗は呻いた。
起き抜けの脳が目覚めていく。
炎天下のアイスクリームが溶けるように、一度解き放たれたらあっという間に。
この日が来てしまったということは、俺も、星(セイ)のように……。
胸に、黒い何かが不規則に渦巻く。
身体に意識が向くと、下腹部のなんとも言えぬ不快感。
それが、彗をさらなる黒い渦の中へと巻き込んでいく。
……とん、とん。
おぼつかないノックの音。
ぎくりとした彗は、後ろから追突された運転手のように背中と首筋をこわばらせた。
(マズいな……)
彗はようやく、マトモな十五歳の本音にたどり着いた。
このシーンを見られること、気づかれることの気まずさといったら。
思春期の男子にとって、本能的に死ぬほど恥ずかしい。
四月一日、午前七時。
牙城院彗は生まれて初めて夢精した。
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