第一章 四月一日、牙城院家にて

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 牙城院彗(がじょういん すい)は苦悩していた。  まさか、こんなにも早くこの日が来てしまうなんて。  やっぱり俺はおかしいのか?   って何自分のことを「俺」なんて呼んでるんだ? 昨日までは「僕」だったろ?  男になるって、こういうことなのか。  自然に変わっていくものなのか。  満ちたものが欠けていく感覚と、欠けたものが満ちていく感覚を同時に抱いた。  次の瞬間。 「うぁぁぁああ」  牙城院彗は呻いた。    起き抜けの脳が目覚めていく。  炎天下のアイスクリームが溶けるように、一度解き放たれたらあっという間に。  この日が来てしまったということは、俺も、星(セイ)のように……。  胸に、黒い何かが不規則に渦巻く。  身体に意識が向くと、下腹部のなんとも言えぬ不快感。  それが、彗をさらなる黒い渦の中へと巻き込んでいく。  ……とん、とん。  おぼつかないノックの音。  ぎくりとした彗は、後ろから追突された運転手のように背中と首筋をこわばらせた。 (マズいな……)  彗はようやく、マトモな十五歳の本音にたどり着いた。  このシーンを見られること、気づかれることの気まずさといったら。  思春期の男子にとって、本能的に死ぬほど恥ずかしい。  四月一日、午前七時。  牙城院彗は生まれて初めて夢精した。
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