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二話「違和感」
四月九日火曜日。
昨日の入学式とは一転して今日から学校が本格的に始まる。壁のあちらこちらには部活の勧誘ポスターが貼られていた。私が廊下を歩きながらそれを見ていると、夜那須蛾咲さんが斜め下を見ながら歩いてくる。クラスメイトの男子生徒が一人肩にぶつかった。彼はどうやら謝罪をしているようだが、何か一言言って私の方へ歩いてくる。言われた彼が両膝を倒して座り込む背中姿が私の目に映った。
彼女は私の方へ。
また一歩……。
また一歩……。
そして目の前で立ち止まった。
彼女は私に悔しそうな顔をするなり、「また一人」と掠れた声で言い残した後、私を避けるかのように私の来た道へ消え去ってしまった。
私はそのまま教室の中に入ると、また何かの違和感を感じた。まさか……とは思いつつも教室の机の数を数えてみる。やはり昨日の人数より一人分の席が消えている。
確か彼の名前は……。
「須田ちゃん、おはよ?どないした?」
「元木君って知らない?」
「有名人?それとも彼氏?」
「はいはい、エッチの予想は違うから。クラスメイトのことよね。私もこやつもまだ全員は覚えてないよ」
「ふんがー!!エッチの予想って言うなや」
そういえば確かに、と思いながら気を紛らせて時間を待つ。するとチャイムと同時に先生が入ってくる。
「席に付いてくださいませ。えっと……何でしたっけ?」
「ホームルームでは?」
江土さんは聞くと、思い出したかのように先生は答える。
「そう、それよ。じゃ、相田さん、よろしくね」
「起立……気を付け……礼!!」
「おはようございます!!」
「おはようございます!!」
相田さんの言葉をオウム返しで飛ばしたその言葉は教室内に響いた。
「着席!!」
「じゃ、この調子で今日の日直はお願いね。そしてこれが幻の日直日誌よ」
「マボロシ?」
「その方が気合い入るでしょ?まっ、これはこれとして置いといて。出席確認を。相田さん……」
名前を呼ばれた者は返事をする。しかしこの部屋には元木さんの名前を呼ばれることは無かった。その代わりに呼ばれたのがまた「夜那須蛾咲さん」だった。そして彼女はまたその時だけ現れてはまた消えたのだ。その日は他に何も起こらなかった。もしかしたら始めての授業や部活の勧誘の勢いで家に帰ってから爆睡するほど疲れていたから覚えていなかったのかもしれない。
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