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ハリーはそう言いながら、一番奥の窓の鍵を開く。
「ほんと、今日はあんまりよ。完全に厄日だわ……」
扉に寄りかかったまま、ずるずると床にぺたんと尻餅を突き。そうしながら、和葉が小さな溜息をついた。
「……ハリー?」
すると、和葉が唐突に神妙な顔で呼びかける。「なんだ?」と振り向かないままでハリーが訊き返せば、
「誰か、近づいてる……。急いだ方が良いかも」
と、深刻な顔で言った和葉が扉の傍を離れようとした時だった。
――――突然、ギィィィンという高音と共に、扉が向こう側から喰い破られたのは。
「きゃぁっ!?!?」
頭上で火花と共に飛び出してきた謎の鉄板に、思わず和葉が悲鳴と共にそこから飛び退く。
「チェーンソー……!?」
突然の高音と和葉の悲鳴に反応したハリーが振り返れば、和葉が見たその鉄板――――まるで扉を突き刺すように飛び出したそれは、紛れもなくチェーンソーの類だった。よく耳を凝らせばチェーンソーのエンジン音も聞こえるし、扉の向こうに物凄く大きな人影が立っているのが見える。
「離れろ、和葉っ! 早くこっちへ来い、来るんだ!!」
「う、うんっ!」
焦燥するハリーの叫びに、和葉が覚束ない足取りながら必死に彼の方へと駆け出してくる。ハリーはQBZ-97を肩付けで構え、躊躇無く扉の向こうへ向けて撃ちまくった。
しかし、ハリーの応戦虚しくチェーンソーの動きが止まることなく。そのまま扉は切り裂かれてしまい、崩れ落ちた扉の向こうから現れたのは、とても人間とは思えないほどの姿をした敵だった。
「おいおい……」
最後の弾倉へと交換しながら、その敵の姿を見てハリーが冷や汗を掻く。
現れた敵――――チェーンソー男は、190センチ以上ある巨体を物凄く分厚い防護服で覆っていた。頭には全体を覆うヘルメットを着けていて人相は分からず、風貌はそれこそ爆弾処理班の耐爆スーツかと思うほど。加えて、確かに扉を貫通したはずの5.56mm弾を三十発喰らってもピンピンしている辺り、あの分厚い防護服は全体が強力な防弾装備なのだろうとハリーは推測した。
恐らくは、ケブラーなどの特殊な防弾化学繊維と、セラミックなどのトラウマ・プレート、そして衝撃吸収用のトラウマ・パッドなどが組み合わされている。5.56mm弾をアレだけ喰らって平気な顔をしている辺り、トラウマ・プレートの厚みもかなりある。
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