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「相変わらずだな、その煙草癖も」
呆れながらハリーが灰皿を彼女の前に置いてやり、「ありがと」なんて言いながらハイライト・メンソールの煙草を咥え始める冴子の対面に自分も腰掛ける。
「それで、要件は?」
折角なので自分もマールボロ・ライトの煙草を吹かし始めつつ、怪訝な顔をしてハリーが訊いた。
「君が直接持ちかけてくる仕事だ、絶対にロクなモンじゃないだろうが」
「そう言わないで頂戴よ、ハリー。今回、私はあくまで仲介役でしか無いんだから」
「仲介役?」
「ええ」と、頷く冴子。「今回の依頼はね、政府筋から直接の仕事よ」
「政府筋……」
公的機関からの依頼、ということだろう。決してこれが初めてというワケじゃないが、毎回ロクな思い出がない。ハリーにとっては、正直敬遠したい相手だった。
――――五条晴彦、ハリー・ムラサメの本業は殺し屋、拳銃稼業なのだ。探偵業というのは、あくまで表向きと税金対策のモノでしかない。
では何故、冴子みたいな公安の刑事が彼を逮捕せずに彼と関わっているのかと聞かれれば、そこにはかなりややこしい事情が介在する。だがまあ、ハリーの現在の立ち位置は、言ってしまえば国の暗部、その外注業者のようなモノなのだ。
言うなれば、掃除屋とでも言うのだろうか。政府筋のそういった表には出せない仕事を請け、個人相手の仕事も請け負う。それこそが、ハリー・ムラサメの稼業だった。
「で、要件は?」
ハリーが訊く。すると冴子は待ってましたと言わんばかりにニッと小さく微笑みながら、咥えていたハイライト・メンソールの煙草を一旦灰皿に置いた。
「防衛省の防衛事務次官、園崎雄一が拉致された」
「それは大変だな」
そんな話は一切報道されていない、なんてことを思いつつ、ハリーが至極適当な相槌を打つ。すると冴子は「ええ、とても大変なの」と頷き返してきた。
「ってことは、俺の仕事は、その防衛事務次官殿の捜索か?」
「残念ながら、違うわ」と、冴子。
「事務次官の件に関しては、既に公安と、それに政府の秘密諜報機関が動いている。貴方にやって貰いたいのは、その娘の護衛よ」
「娘?」怪訝な顔で、ハリーが訊き返す。「どういうことだ、説明してくれ冴子」
「焦らなくても、してあげるわよ。……百聞は一見に如かず、まずはこれを見て」
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