SIX RULES

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 ウォードッグとクララがそんなやり取りを交わしている間にも、別動の工作班によって学園周辺への妨害工作が始められていた。電話線に電線を切断し、更に随伴する指揮車両によって、広域への電波妨害を行う。こうすることによって、警察への通報を遅らせる狙いだ。  美代学園の周辺は田畑が多く、人家が極端に少ない。そんな環境下にあっては車通りも極端に少なく、今この時を以て、この美代学園は一種の陸の孤島と化したのだ。他でもない、"スタビリティ"の遣わせた傭兵たちの手によって。 「各員、好きに動けばいいよ」  一通りの妨害工作が終われば、作戦開始の指示を待つ完全装備の傭兵たちがクララと、そしてウォードッグの傍へと集まってくる。するとクララがそうやって、ある意味で適当とも取れる指示を下した。この現場での実質的な指揮権は、この二人に預けられていたのだ。 「僕とウォードッグは、こっちはこっちで好きにやらせて貰う。僕らの目的は荷物(パッケージ)の速やかな回収だ、間違っても荷物(パッケージ)を殺してしまわないように」  そう言いながら、クララは腰の小振りなホルスターに収めていた自前の拳銃を抜いた。ベレッタの古い自動拳銃、モデル70"ピューマ"だ。  弾倉を抜き、残弾を確認してから差し直し、それからホルスターに収め直す。こまめな残弾確認が、クララの癖だった。 「交戦規定は、ただひとつだけだ」  そうしてから、クララは気怠そうに、至極言いたく無さそうな雰囲気を醸し出しながら、小さな溜息と共に目の前に集結した傭兵たちに告げる。 「……交戦規定は、園崎和葉の確保。そして――――それ以外、全ての抹殺だ」  ――――日常が非日常へと変わり、そして緩やだった平穏は音を立てて崩れ落ちる。 /12  二限目の授業を唐突に切り裂いたのは、すぐ傍で轟いた張り裂けるような破裂音にも似た凄まじい音だった。  明らかに、学園の敷地内で起こった音だった。その破裂音が起きた瞬間、和葉の周りで数学の授業を受けていたクラスメイトたちが、一様にざわめき始める。 「静かに、静かに!」  それを、教壇の上に立つ年老いた数学教師が険しい顔で宥める。 「どうせ、誰かの自転車のタイヤがパンクしたか何かだろう。ほら、気にせず授業の続き進めるぞー」
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