SIX RULES

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「冴子、君には事態の出来る限りの隠蔽工作と、事後処理の気配を可及的速やかに頼みたい」 「それって……」 「ああ」神妙な顔で、頷くハリー。「……どうやら、血を見ずにはいられない」 「……そう、分かったわ」  ハリーの言葉の意味を自ずと察してか、冴子はサーブラウを運転しながら、少し俯き気味でそれに頷いた。  やがて、冴子の運転するサーブラウは学園のすぐ近く、しかし少しだけ離れた辺りに到着する。ギャアアッとタイヤを盛大に鳴かせながら横滑りして停まったサーブラウの助手席から、すぐさまハリーが颯爽と降り立った。 「十分に気を付けるのよ、晴彦」  後ろ手にサーブラウのドアを閉めていれば、背中越しに冴子の案ずる声が聞こえてくる。 「分かってるさ」  そんな冴子の方を向かぬまま、ハリーは言いながら歩き出し。アルマーニのスーツに包まれた背中だけを彼女に見せながら、ただ軽く後ろ手を振ってやる。 「俺を誰だと思ってる?」  そして、ハリーはふとした時に振り返り、 「――――プロフェッショナルだ。こういうことには、慣れ過ぎてる男だよ」  オールバックに掻き上げた前髪の下に不敵な笑みを湛えながら、冴子に向かってそう言ってみせた。 //14 「……はぁ」  美代学園への突入と学園の制圧が"スタビリティ"の傭兵たちによって開始される中、そんな傭兵たちの手によって教師や生徒たちが無慈悲に殺されていく光景を遠目に眺めながら、新校舎の廊下に立つクララは独り、辟易したように小さく溜息をついていた。 「こういうのって、好きじゃないんだよね…………」  心の奥底から出てきた言葉だった。クララ自身、こういった一方的な殺しというか、無抵抗で無関係の人間を殺すことは好まない。寧ろ、嫌いな部類に入る。  それが、今目の前で繰り広げられている光景はどうだ。殆ど虐殺に等しいような、いや虐殺そのものではないか。逃げ惑う生徒を撃ち殺し、泣き喚いて命乞いをする少女をいたぶるようにじわじわと痛めつけてから殺し、抵抗を試みた勇気ある教師は、大口径ライフル弾で頭を柘榴(ざくろ)みたいに原型が残らないほどに吹き飛ばされてしまう。  正直、クララは眼を背けたかった。というか、知らず知らずの内に背けていた。それ程までに嫌悪する行為が目の前で繰り広げられていて、そしてそんな嫌悪する行為の一端に自分も関わってしまっていることが、何より辛かった。
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