SIX RULES

54/235
前へ
/235ページ
次へ
「……嫌だ、嫌だ。嫌だね、本当に…………」  吐き捨てるように、クララがひとりごちる。仕事の上で、雇われたから仕方なく付き合ってはいるが、正直今すぐにでもクララは帰りたい気分だった。こんな馬鹿げた仕事内容だと分かっていれば、最初からこんな仕事、"スタビリティ"からの仕事なんて蹴っていたのに。 「そうかァ? 俺は楽しいけどな」  そんな嫌悪感丸出しのクララのすぐ傍で、ウォードッグがニヤニヤと嬉しそうに嗤いながら彼女の独り言に言い返していた。  ちなみにウォードッグ、今は丸刈りの体育教師の上にマウントを取り、ニコニコと嗤いながらそれを素手で楽しそうに撲殺している。クララとは異なり、ウォードッグは根っからの外道、殺しに道楽と快楽を見出すタイプの、ある意味でクララとは正反対の人間だった。 「君が悪趣味なだけだよ、ウォードッグ」  そんなウォードッグをチラリと横目に見て、小さな溜息をつきながらクララが呆れたように言い返す。 「……ん?」  すると、クララは近くで物音がするのに気が付いた。そして、誰かの気配もする。  一応用心して腰のホルスターから愛用のベレッタ・モデル70"ピューマ"を抜きながら、その気配の方へと近寄っていく。すると――――。 「ひっ……!」  そこには、茜色の髪の少女が縮こまるようにして隠れていて。ひとたびクララに見つけられると、震えた瞳で背の低い彼女を見上げた。まるで、命乞いするかのように。 「……はぁ」  そんな彼女――――クララは知らぬことだが、桐谷朱音という彼女の姿をクララは見ると、疲れたような溜息をつきながら、握り締めていたベレッタ・ピューマを腰のホルスターに戻した。 「ホントに、嫌だねこういう仕事って……」  ひとりごちながら、クララは朱音に背を向けて。そして一度振り返ると、 「僕は、君を見なかったことにするよ。だから君は、他の誰にも見つからないように頑張って隠れてるんだ」 「えっ……?」  戸惑う朱音に目もくれず、そのままクララは彼女の前から歩き去って行ってしまう。何事も無かったかのように、最初から誰も居なかったように装って。 「よォ、クララ。誰か居たのかァ?」  そうしてウォードッグの方に戻れば、お楽しみ《・・・・》を終えた彼は既に立ち上がっていて。血にまみれた指無しグローブを付けた手をブンブンと軽く振りながら、戻ってきたクララに声を掛ける。 「誰も居ないよ」
/235ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加