SIX RULES

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 クララはそんなウォードッグに素っ気ない態度で答え、もう一度大きな溜息をついた。 「…………」  やることも無いので、クララは片耳に付けたイヤホンから傭兵部隊の無線通信に意識を傾けてみた。 「……? 妙だね……」  ニヤニヤとするウォードッグに呆れた視線を向けながら無線通信を聞いていれば、すると妙な雰囲気が漂っていることにクララは気付いた。  ――――無線通信に応答しない奴が、現れ始めているのだ。 「……?」  きっと、無線機が故障したか何かだろう。  そうは思うが、しかしクララの中で少しの疑念が渦巻いていた。そして同時に、妙な気配も感じ始めている。懐かしいような、そんな張り付く僅かな殺気を……。 「どうしたァ、クララ」  そんなクララの様子を怪訝に思ったのか、ウォードッグがクララに声を掛けてくる。しかしクララはそれに「ううん、なんでもない」とだけ答え、それ以上を言おうとはしなかった。 (――――まさか、ね)  彼女の知らないところで、一人の男が動き出そうとしていた。しかしそれを、クララもウォードッグもまだ気付けてはいなかった。 /15  茂みを越え、敷地と外界とを隔てるフェンスを軽々と乗り越えて。そうしてハリーは、その身ひとつで学園の敷地内へと潜入した。  丁度、ハリーが忍び込んだのは体育館の裏手辺りの場所だった。人気(ひとけ)の少ない、それこそ映画やドラマなんかで秘密の告白シーンや、不良同士の乱闘が起きそうなぐらいに人気(ひとけ)の少ない場所だ。 (……手持ちの武器は少ない)  表に戻って、インプレッサに隠してある大量の武器弾薬を取ってくる余裕は無かった。恐らく正面は敵が固めているだろうという推測もあってのことだが、それ以上にハリーは取りに戻る時間が惜しかった。  この間にも、和葉が危ない目に遭っているかもしれない――――。  そう思うと、武器を取りに戻るという選択肢はハリーの中から消えていた。  故に、手持ちの武器らしい武器は拳銃一挺とナイフ一本だけだ。拳銃はドイツ・H&K社製のコンパクトな自動拳銃、USPコンパクト。ポピュラーな9mmパラベラム弾の仕様で、十三発が入る弾倉が銃に差してある物以外に予備で二本を持っている。
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