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「かっ、和葉なら……。騒ぎが起こってすぐ、教室を飛び出しちゃって。それで、何処かに行っちゃったんです……っ」
どうやら、涙目でそう語る彼女――――朱音もまた和葉を追って教室を飛び出し、その最中に異変に気付き、そして隠れることで難を逃れたのだという。全く運の良い奴だと思い、話を聞き終えたハリーは思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「分かった。君は隠れて、警察が来るまでじっとしていろ。いいか、物音一つ立てるんじゃないぞ」
「あの、和葉をどうする気なんですか……?」
告げるだけ告げて、くるりと踵を返し立ち去ろうとするハリーを呼び止め、涙目で彼の背中を見上げながらで朱音が問う。するとハリーは歩みを止め、背中を向けたまま首だけで彼女の方へ振り向き、
「……助け出すさ、必ずな」
不敵な顔でそう言って、今度こそ朱音の前から姿を消した。
「……お願いします。和葉を、どうかお願い…………!」
ハリーの気配が消え、そして後に残るのは、懇願するような朱音の悲痛な願いだけ。
(体育館でも、校舎でも無いとしたら。すると、考えられる園崎和葉の逃走先は――――)
小さな確信と共に、ハリーは走り出す。行く先は一ヶ所、隣の旧校舎だった。
/18
旧校舎三階、使われていない空き教室に身を潜めていた和葉はやっとこさ落ち着きを少しだけ取り戻していたが、しかしその平静を再び壊したのは、近寄ってくる大きな足音だった。
ドスンドスンといった具合に地響きが鳴りそうなほど、本当にドデカい足音だった。そんな大きな足音が、確かに和葉の隠れる空き教室の方へと近づいてくる。
「やだよ、来ないでよ……っ!」
机の間に隠れたまま、蹲って必死に懇願する和葉。しかしその願いは叶わず、近づいてきたドデカい足音は丁度、和葉の隠れる空き教室の扉の前で立ち止まった。
凄まじく大きな人影が、引き戸の磨りガラス越しに和葉からも見える。きっと、身長190センチ以上はあるだろう。明らかに大男といった具合の、そんな巨大なシルエットだった。
ともすれば、その巨漢は物凄い勢いで扉を蹴り飛ばし。鍵を掛けていた筈の扉は、しかし男の丸太のように太い脚でもっていとも簡単に蹴破られてしまった。
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