SIX RULES

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 そして、何処からか聞き慣れたクールな男の声が聞こえれば。不敵な笑みを湛える、クールな男の声が響き渡れば。廊下側のガラスがあまりに突然に砕け散り、そして――――ウォードッグのドデカい身体が、激しく吹き飛んでしまう。 「えっ……?」  戸惑う和葉の頭上を、ウォードッグが飛んで行き。その勢いで外側の窓ガラスをブチ破れば、そのままウォードッグは下に向かって思い切り落下していった。  廊下側のガラスをタックルするようにブチ破り、飛び散る破片と共に空き教室に現れるスマートな影。膝立ちの格好で床に着地した彼は、見るからに高そうなアルマーニの高級イタリアン・スーツに身を包んでいた。 「――――待たせたな、戻って来たぞ」  自動ライフル片手に立ち上がる彼――――ハリー・ムラサメの湛える不敵な笑みが、今だけは誰よりも、何よりも頼もしく和葉の瞳には映っていた。 /19  数分前のことだ。  あの後また多少の交戦を経た後で、追っ手を撒き何とか旧校舎に辿り着いたハリーは上階から伝わる物凄い音と微かな振動を察し、真っ直ぐに階段を昇り上階を目指していた。今の音が和葉に危険が迫っている物だと、根拠は無いが彼の第六感がそう告げていたのだ。  二階を突っ走って探索し、そしてまた階段を駆け上り三階へ。そこで扉が無残に蹴破られた教室を一つ見つけると、陰に隠れながら慎重に中の様子を窺う。  教室の中には、ドデカい巨漢の背中があった。シュワルツェネッガーかと思うぐらいのデカさと隆々とした筋肉、そしてアジア系にしか見えない肌の色。その後ろ姿は間違いなく、あの"ウォードッグ"のモノだ。  そして、その向こう側には蹲りながらウォードッグを涙目で見上げる、怯えた様子の和葉の姿もあった。恐らくは彼女が隠れていたのだろう積み上げられていた机と椅子は、ウォードッグによって既に半ば以上が吹き飛ばされている。 (仕掛けるか……?)  いや、まだだ。ハリーは飛び出したい衝動を抑えながら、必死にタイミングを待った。明らかな強敵・ウォードッグの虚を突ける、最高のタイミングを。  やがて、ウォードッグは和葉の近くへとのそりのそりと近づいて。そうして驚くことに、邪魔な机や椅子を片腕でヒョイヒョイと放り始めた。まるで空き缶でも投げ捨てるみたいな軽快さと気軽さで、そう軽くもない机をさも簡単なようにポイポイとそこいらへ雑に投げていく。
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