SIX RULES

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 恐ろしい筋肉だ、とハリーは素直に驚嘆し、そしてウォードッグに対して微かな恐れを抱いた。あの筋肉が本気になって殴りかかってくれば、タダでは済まないだろう。まして、あんな丸太みたいに太すぎる脚で全力の蹴りを喰らわされることなんか、想像もしたくないぐらいだ。 (想像以上だな、ウォードッグ)  今、直に己の眼で見るウォードッグという男は、先刻渡された資料で見た時よりもずっと恐ろしかった。果たしてこの男に勝てる人間がこの地球上に存在するのかと、ハリーが本気で疑うほどの風格と力強さだった。  流石は香港ヤクザ叩き上げにして、世界中の戦場を絶え間なく渡り歩いてきた歴戦の傭兵というワケだ。ウォードッグ(戦争の犬)という仇名は、どうやら伊達ではないらしい。 (だが、勝てない相手じゃない)  奢りや傲慢などではなく、冷静な頭でハリーはそう思っていた。確かにウォードッグは強敵だ。今まで出逢ったことが無いほどに、恐らくはハリー・ムラサメの人生最大級の強敵なのは間違いない。  しかし、それでも勝てない相手ではないと、ハリーは内心で確信する。例え相手があんな恐ろしい巨漢だろうが、世界各地を転戦してきた歴戦の傭兵だろうが、所詮は同じ人間。ミリィじゃないが、結局は同じ土俵に立っているというわけだ。それに……。 (血を流す相手なら、殺せるはずだ)  相手は未来からやって来た殺人ロボットでも何でもない。同じ時代に生きる、ただの人間だ。何処まで行ってもその事実は揺るがず、確実なもの。同じ人間という生物であるからには、ハリーには奴を殺せる確かな自信があった。 (仕掛けるタイミングさえ見誤らなければ、どうにかなる)  そう思いながら、ハリーはQBZ-97の銃把を握り締め。そして教室と廊下とを隔てる窓ガラスから小さく顔を出しながら、絶好のタイミングを待っていた。 「悪いな、仕事なんだ」  邪魔な机と椅子を全部放り投げ、和葉を見下ろしながらウォードッグが言う。奴の顔までは見えなかったが、きっとその名に相応しい闘犬みたいな笑みを奴は浮かべていることだろう。 「助けてよ…………っ!」  和葉の懇願する声が漏れ、それは偶然、ハリーの耳にまで届いていた。 「助けてよ。ねぇ、ハリー…………っ!」 (っ……!)  仕掛けるなら、今しかない。いや、今を置いて他にはない。これが、ラスト・チャンスだ。 「その依頼、確かに承った…………!」
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