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ハリーは満を持して立ち上がり、窓ガラス越しにQBZ-97の照準をウォードッグの背中へと合わせる。口から出てきた咄嗟の一言は、ハリーも無意識の内に漏らしていた言葉だった。
和葉が唖然とするより早く、声に反応したウォードッグが振り返るよりもずっとずっと早く。ハリーは肩付けに構えたQBZ-97自動ライフルのセレクタをフルオートに合わせ、そしてその引鉄を容赦無く奥の奥まで引き絞った。
銃口で、ハリーの視界内で盛大な火花が瞬く。薄いガラス窓を容易に突き破ったのは、世界的にポピュラーなNATO規格5.56mm×45小口径・高速ライフル弾。軍用フルメタル・ジャケットの弾頭はガラス窓を容易く突き破り、数十発もが凄まじい勢いで次々にウォードッグの背中に到達し、その広すぎる背中を超音速で殴り付ける。
背中に数十発の5.56mm弾を喰らったウォードッグが、たまらずその巨体を吹き飛ばされる。まるで後ろから鉄球か何かで思い切り殴られたみたいに激しく吹っ飛んだ巨大な身体は、蹲る和葉の上を平気で通り過ぎ。そしてそのまま外側の窓ガラスに激突すると、ガラスをブチ破りながら下へと落下していった。
「えっ……?」
何が起こったか分からないといった和葉の顔を一瞥した後で、ハリーは小さく助走を付けると地を蹴り、5.56mmの弾痕だらけになった目の前の窓ガラスへと飛び込む。
穴だらけになって脆くなった薄いガラスを、タックルの要領で肩からブチ破ってハリーが教室内に飛び込む。くるりと床の上で一回大きく前転なんてかましながら着地すれば、ハリーは一度膝立ちの格好になる。
顔を上げたその瞬間、和葉と眼が合った。明らかな動揺に揺れる、涙の滲んだ彼女のルビーみたいに紅い瞳と。
「待たせたな」
そして、立ち上がりながらハリーが口を開く。不敵な顔で、敢えて余裕の表情を作ってみせながら。
「……戻ってきたぞ」
弾の切れたQBZ-97を右肩に預ける格好で立つハリーの姿を、和葉は信じられないような顔で見上げていた。
「本当に、貴方なの……?」
「君を助けに来た」と、ハリー。「少々、遅刻してしまったが」
「ヒーローは遅れてやって来るってよく言うけれどさ、幾ら何でも遅刻にも程があるわよ……」
冗談っぽいハリーの言葉に、和葉も思わずクスッと吹き出す。その瞳に未だ涙を滲ませたまま、しかし少しだけ表情を安堵に落ち着かせて。
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