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「ルール第一条、時間厳守。……そうじゃなかったかしら、ハリー・ムラサメ?」
「悪かったよ、本当に悪かった。そこは謝るよ、園崎和葉」
「和葉で良いわよ、今更よそよそしい」と、和葉。「そしたら、貴方のこともハリーって呼んで良いかしら?」
「……好きにしろ」
ぶっきらぼうに頷きつつ、ハリーはQBZ-97の空弾倉を足元に放り捨てた。アルミ製の弾倉が木張りの床に跳ね、カランコロンと音を立てる。
「…………でも、私を助けに来てくれたんだよね。命懸けで」
俯き、何故かハリーから視線を逸らす和葉の言葉に、ハリーが新しい弾倉を差し込みながら「ああ」と頷く。
「ルール第二条、仕事は正確に、完璧に遂行せよ。
――――俺の信条だ。少々遅刻してしまったが、第二条は守ることが出来た」
クールな顔で言いながら、QBZ-97のコッキング・レヴァーを奥まで引いて放し、ガシャンという確かな機械音と共に新たな一発が薬室に装填される。
「……本当に、変な人」
そんなハリーの方を見上げながら、和葉が小さく笑う。
「でも、ありがとう」目尻の涙を手の甲で拭いながら、和葉が言った。「……そして、ごめんなさい」
「礼を言うのも詫びるのも、全部後にしよう。今はとにかく、此処から君を逃がす」
スッと、ハリーがライフルを持たない左手を蹲る和葉の方に差し出した。「付いて来られるな?」
「……当ったり前じゃない」
そして、その手を和葉が握り返す。
「エスコートは頼んだわよ、凄腕のハリー・ムラサメさん?」
ハリーの強靱な左腕に引き起こされながら、微笑みと共に冗談めかしたことを言う和葉。その瞳にはもう涙の潤みも、恐怖の色も無かった。
「任せろ、レディのエスコートは得意なんだ」
そんな和葉に粋な返しをするハリーの横顔は、クールで不敵な笑みに満ちていた。
(『第二条:仕事は正確に、完璧に遂行せよ。』完)
第三条:依頼内容と逸脱する仕事はしない。
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「和葉、君のバイクは何処に?」
「……学園の裏の方、いつもと同じ茂みの中に隠してある。でも、なんで?」
「俺の車は表側、遠すぎるしリスクが大きすぎる。悪いが、君のバイクを使わせて貰うことになる」
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