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「……びっくり人間の展示会でもあったのか? こんなことなら、.50口径持ってくるんだった」
口先ではそんな軽口を叩きながら、しかしハリーの表情はかなり苦い。
「和葉、そこらに離れてろ!」
「う、うん……!」
和葉を物理室の隅へ逃がしつつ、じりじりとにじり寄ってくるチェーンソー男とハリーが相対する。
先に仕掛けたのは、ハリーの方だった。物理室の大きな机を飛び越えながら、チェーンソー男の背後へ回り込むようにしつつQBZ-97を撃つ。
だが、効果は無いに等しかった。関節部分なんかの構造上弱いところを狙ったはずなのに、撃ち放った5.56mm弾は一発たりとて貫通しない。
「どんだけ分厚く着込んでんだ、エスキモーかお前は……!?」
焦燥しながら、ハリーは奴の背後へと回り込む。そして尚もQBZ-97を連射するが……。
「っ……!?」
――――チェーンソー男が、その鈍重な見た目からは想像できないほどの俊敏さでハリーの方に振り向く。
振るわれるチェーンソーに本能的な危機感を感じ、ハリーは咄嗟に飛び退いた。QBZ-97を両手で横倒しに握り締め、盾にするかのように。
しかし、チェーンソー男の動きの方が一段速かった。ハリーは致命傷を喰らうことこそ免れたが、盾にしていたQBZ-97を掠めたチェーンソーの回転する鋸にスパッと真ん中から両断されてしまう。
「畜生っ!」
これでは、使いものにならない。ハリーは真っ二つになったQBZ-97を投げ捨てながら尚も大きく飛び退き、奴から距離を取る。
「コイツを倒すにゃ、冗談じゃなくマジで.50口径の対物ライフルが要る……!」
無意識の内に口に出ていたそんな独り言は、紛れもなくハリーの本心だった。
こんな奴が相手では、残っている拳銃三挺も役には立たないだろう。9mmパラベラムみたいな豆鉄砲でどうにか出来る相手じゃないことは、今までの手合わせで既に分かっていることだ。手榴弾も同様に恐らくは役立たずな上、こんな閉所で起爆すれば自分や和葉にまで危険が及ぶかも知れない。
ともすれば、奴は素手で相手をするしかないのだ。下手に銃を使うより、まだ勝算はある。
「なんてこった……」
小さく溜息をつきながら、ハリーは左手でとっておきのナイフを展開し、逆手に握り締めた。ベンチメイド・9050AFO。どんな窮地も、これ一本で凌ぎきってきた。最後に命を託すなら、やはりこのナイフがいい。
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