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逆手にナイフを握り締めた格好で構えを取るハリーと、手に持つ巨大な回転鋸を唸らせる巨大なチェーンソー男が睨み合い、じりじりとその距離を詰め合う。
「――――!」
今度は、チェーンソー男の方から仕掛けて来た。振り上げたチェーンソーを縦一文字に振り下ろし、ハリーの身体を文字通り両断しようとする。
ハリーはそれを俊敏なサイドステップで回避し、一気にチェーンソー男の懐に潜り込めば、その肘関節を破壊しようと試みた。どうせ刃が通らないのは分かっているから、左手のナイフは関節を極める補助具に徹させる。
男の右手首をナイフの峰で押さえ付けながら、右手で肘に強烈な一撃を叩き込む。取った、とハリーは確信した。
「嘘だろ……!?」
しかし、男の関節は砕けない。分厚い防弾装備が、ハリーの得意とする関節破壊を妨害していたのだ。
「やべ……っ!」
一瞬の動揺を突かれ、ハリーがチェーンソー男の左腕に思い切り吹き飛ばされる。大きく吹っ飛んだハリーの身体は実験器具の収まる棚に背中から激突し、尻餅を突いて項垂れるハリーへ、壊れた棚から大量の実験器具が降り注ぐ。割れたガラスの雨がハリーの身体に降り注ぎ、そして床に散らばる。
背中を強打した衝撃で、ハリーの意識が一瞬だけ薄れていく……。
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「ハリーっ!」
遠くで、和葉が叫ぶ声が聞こえた。一瞬だけ意識を失っていたハリーはそれで意識を取り戻すが、しかしその頃には、すぐ目の前にチェーンソー男の姿があった。
「おいおい……」
振り上げられるチェーンソーを見上げながら、ハリーが苦く笑う。流石に今回ばかりは、逃げられないような気がした。
「――――ハリー、これっ!!」
しかし、遠くからまた和葉の声が聞こえてくる。苦い顔でハリーがそちらに振り向くと、
「冗談だろ?」
……自分に向けて、和葉が何処からか引っ張ってきた赤い消火器を投げてくるのが見えた。
(イチかバチか、やってみろってことか……!?)
あんなものでこのチェーンソー男に勝てるとは、到底思えない。
――――しかし、やってみる価値はある。
「後は野となれ、なんとやらだ……!」
宙を舞いやたら正確に飛んでくる消火器をハリーはしっかりと受け止め、そして和葉から受け取ったそれを使い、イチかバチかの賭けに出る。
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