第一話

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第一話

「このたびは当バスをご利用いただきましてまことにありがとうございます。これより皆様にはしばしの間、都会の喧騒を離れ、地獄の苦しみを味わっていただきます」  バスガイドは確かにそう言ったように思えた。最後のところだけが何かの聞き違いだったのかもしれない。  バスの中は、地獄の苦しみをくぐり抜けてきた歴戦の勇者でいっぱいだった。 「そちらはどちらの……」 「ああー、電子部品ね」 「ああ、あの沿線ですかなるほど、いいところですね」 「人材派遣をやってます」 「いわゆるIT土方ってやつでね」 「飲食店ですね、支店五つばかり、もうちょっと拡げたいんですが、なかなか」 「うちは支店五百まで行きましたけど、薄利多売で、なかなか儲かりはしませんな」  このバスに乗っている人はだいたい社長。社長でなくても偉い人。大企業から中小企業までさまざま。しかしそれでも、社長というほど威厳はなくて、シャチョサン、なんてバーママに声をかけられるタイプ。 「おい、あの女今なんて言った?」 「味わっていただきますの前、ちょっと聞き取れなかったけど、何かうまい料理とかじゃないの?」 「とりあえず最初の目的地は地獄谷温泉じゃなかったっけ」     
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