1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
時に西暦2019年
「ＨＥＬＬだ……」
絵に描いたような紅毛碧眼の男が顔をしかめた。カウンター席には湯気が香り、威勢よく麺をすする音が響いている。
彼はネットで覚えたばかりの日本語を隣の客に浴びせた。
「何だと？ てめぇ何様だ。この野郎。嫌なら帰れ！！」
言いがかりをつけられた男は箸を外国人の鼻腔に刺した。たちまち、店内が騒然となり、取っ組み合いの喧嘩がはじまる。
ここは地方都市の讃岐うどんチェーン店。歴史に名を馳せるような神社仏閣は無いが、知る人ぞ知る名刹があり、特産品の磁器が海外の人気を呼んでいる。２０２０年の東京五輪・パラリンピックを目前にして、有名どころの名所旧跡はとっくに海外旅行客で溢れかえり、とうとうマイナーな田舎町の裏路地にまでひしめいている。
時代が下って、数年後。
「たくもー。最近はどこもかしこもガイジンだらけでよ。犬も歩けばガイジンに当たるってな」
環太平洋農業局の裏手で農民が栄養食品を齧っている。これ一本で１日分のミネラルとカロリーが取れる優れものだが、味は糖尿病を心配するくらい甘い。環太平洋貿易協定の規定により原提案国の味覚が基準になっている。
最初のコメントを投稿しよう！