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スニーカーも脱ぐのも忘れて家の中へと進む。
臭いはどんどん濃くなっていく。
リビングのドアを開け、部屋の明かりを点けた時、思わず息を呑んだ。
最初に飛び込んできたのは赤黒い色。それもリビングの床や壁や天井にまで広がった赤黒い物……有希がそれが何であるかをすぐに理解できなかった。
しかし、床に無造作に置かれていた物を見て、ようやく分かった。
そこにあったのは大小無数の肉片であった。その中には洋服の一部をつけたままの物もあり、それは両親が来ていた洋服そのものだった。
……血……全部、血だ……
おそらく両親が殺されている、という事なのだろうが、彼がそれを受け入れるまでには、僅かな間が必要だった。
……弟は……
リビングを見回しても、両親の物とおぼしき肉片は見つかるが、弟の服をつけたままの物はなかった。
血だまりの中を走る。
奥の扉を開ける。普段は入る事がない部屋へ。
勢いよく部屋に入る。
弟は、部屋の隅で血塗れになっていた。
だが、もう一つ異質な存在があった。
人影である。
その場から離れなければ、と体が反応した。
刹那、人影は有希の目の前にいた。相手の手が胸に触れている。
無音の衝撃があった。
吹き飛ばされ、リビングの血だまりの中へと転がり、派手な音を立てて食器棚に背中を打ちつける。ぶつかった拍子に棚から皿が何枚も落ち、有希の頭の上にも落ちてくる。
「いってぇ……」
思わず声が出た。
今まで経験した事がない痛みだった。
「……ほう……」
感心したような男の声がして、人影は玄関へと走り去る。
「待て!」
有希も立ち上がり、追いかける。
外へ出る。
夢中で後ろ姿を追う。
胸の痛みは引かなかったが、体は軽かった。夜風が頬を切る。速度はぐんぐん上がっていく。
接近した瞬間に人影の顔を見た。それは男で、年齢は三〇代後半くらいだろうか。額から右頬にかけて大きな傷があった。一度見たら忘れない特徴である。
だが、追跡は長く続かなかった。
血だらけの制服を着た学生が走っているのを、警察は見逃さなかった。
体当たりされ、その場で捕まった。
程なくして家での惨状が分かると、逮捕された。
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