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公園のベンチで寝ていた香坂秋人は、騒々しさに目を覚ました。
「てめぇ何逃げてんだ、オラ!」
声のする方を見ると、男が三人で一人の人物を囲んでいた。
その人物は、女性のようであった。年齢は十六前後であろうか。髪は短く、細身に白いワイシャツを着ていた。
恫喝する男達に怯える事なく、足を肩幅と同じくらいに開いて立っている。
秋人が助けに入ろうとベンチから立ち上がろうとした時、
「逃げたわけじゃない……おびき寄せたんだ」
白いワイシャツの人物から男性の声がした。
「ふざけやがって!」「なめてんのか!」「てめぇ殺すぞ!」
男達が叫ぶ。
美しい少年は左右に一人ずつ、前に一人相手がいる事を目で確認した。体格はいずれも彼より大きい。
刹那、少年が動く。前方の男の顎を右の掌で素早く打つ。続けて右側の男の横顔に右手で裏拳を叩き込み、その拳で左の男の腹にめり込ませた。
一瞬の出来事であった。常人には見切る事ができない素早さだったが、秋人には見る事ができた。一連の動きはもちろん、少年のワイシャツから延びる色白の手の先で揺らめく「もの」を。
少年の右足に「それ」がまとわりつくように発生する。
「死ぬのはお前だ」
倒れて足下で呻いている男の顔面に向かって右足を上げる。
「やめな!」
秋人は少年に向かって叫んだ。
「それをぶっ込んだら本当に死んじまうぜ」
「誰だ」
彼が秋人へ鋭い視線を向ける。
「僕の邪魔するやつは……」
少年がそう言ったかと思うと、彼は秋人の目の前にいた。
「……殺すよ」
つい先程まで男達に向けられていた殺気は、秋人に向いている。
……こいつ、本気で殺す気だ……
少年の高速の回し蹴りが迫る。
ドン、と鈍い音がした。
彼の回し蹴りを左手で受け止めている。
「驚いたかい?」少年の驚いた顔を見て、秋人は言った。「俺も使えるんだよ、コレ」
秋人の左手にも揺らめく「それ」が浮かび上がる。
「俺の名前は香坂秋人だ」
「は?」
「自己紹介だよ。で、お前の名前は?」
「……藤崎……有希……」
秋人は有希と名乗った少年の足を話すと、微笑んで言った。
「有希か……よし、飯でも食いに行くか」
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