第1話 美貌の少年

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 藤崎有希は困惑していた。  飯でも食おうと言われて入ったのは喫茶店で、目の前には分厚いパンケーキが三枚、その先には香坂秋人と名乗った男が座っている。彼の前にもパンケーキがあり、メープルシロップがたっぷりとかかっている。  秋人の身長は一八〇センチはあるだろうか。一七〇センチの有希がやや小さく見える。体も大柄で、Tシャツからは筋肉質な腕は伸びている。  店内の客からの視線を度々感じる。パンケーキを食べに来たカップルのように見えるのではないか。 「冷めないうちに食いな」  秋人はシロップにまみれた大きな一切れを口に運ぶ。  有希も一口食べてみる。  おいしかった。  夢中で食べた。こんなに甘くてふわふわしててうまいものを有希は知らない。  三枚あったはずのパンケーキはあっという間になくなった。  食後にコーヒーを飲みながら、秋人が尋ねる。 「一体何があったんだ?」 「何って?」 「男に絡まれてただろう?」 「別に……駅前にいたら声かけられた」 「それだけか?」 「しつこいから殴ったら、仲間が追ってきた。公園なら思い切り暴れられるから」  秋人は豪快に笑った。 「そりゃあ災難だったな」 「あんたこそ……」有希が聞く。「なんで公園なんかに」 「寝てたんだよ」 「公園で?」 「そうさ、別に盗られる物はないし、自分の身は守れるからな」  確かに秋人は金持ちそうには見えないし、体格的にも強そうだ。 「それに……」秋人が続ける。「野暮用があってな」  彼はもぞもぞと動いてジーンズのポケットから封筒を取り出した。ポケットに入れていたせいでくしゃくしゃだが、灰色で縁に金色の飾りがデザインされている。 「それは・・・!」  有希は思わず声を上げる。彼は胸ポケットから取り出したのは、きれいに折り畳まれているが、灰色に金飾りがデザインされた封筒であった。 「なるほど……そういう意味か……」  秋人は呟く。 「お前、何を知っているんだ」 「おいおい、そう睨みつけるなって」 「それに、お前は何者なんだ? 僕の蹴りを受け止められた奴は今まで誰もいなかった。それにその封筒……」  有希がまくし立てる様子を見て、秋人は困ったように視線を宙に泳がせる。しかし、有希はまっすぐに見据える。  秋人は一瞬窓から店の外を見る。 「仕方ない……来い、教えてやるよ」
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