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藤崎有希は困惑していた。
飯でも食おうと言われて入ったのは喫茶店で、目の前には分厚いパンケーキが三枚、その先には香坂秋人と名乗った男が座っている。彼の前にもパンケーキがあり、メープルシロップがたっぷりとかかっている。
秋人の身長は一八〇センチはあるだろうか。一七〇センチの有希がやや小さく見える。体も大柄で、Tシャツからは筋肉質な腕は伸びている。
店内の客からの視線を度々感じる。パンケーキを食べに来たカップルのように見えるのではないか。
「冷めないうちに食いな」
秋人はシロップにまみれた大きな一切れを口に運ぶ。
有希も一口食べてみる。
おいしかった。
夢中で食べた。こんなに甘くてふわふわしててうまいものを有希は知らない。
三枚あったはずのパンケーキはあっという間になくなった。
食後にコーヒーを飲みながら、秋人が尋ねる。
「一体何があったんだ?」
「何って?」
「男に絡まれてただろう?」
「別に……駅前にいたら声かけられた」
「それだけか?」
「しつこいから殴ったら、仲間が追ってきた。公園なら思い切り暴れられるから」
秋人は豪快に笑った。
「そりゃあ災難だったな」
「あんたこそ……」有希が聞く。「なんで公園なんかに」
「寝てたんだよ」
「公園で?」
「そうさ、別に盗られる物はないし、自分の身は守れるからな」
確かに秋人は金持ちそうには見えないし、体格的にも強そうだ。
「それに……」秋人が続ける。「野暮用があってな」
彼はもぞもぞと動いてジーンズのポケットから封筒を取り出した。ポケットに入れていたせいでくしゃくしゃだが、灰色で縁に金色の飾りがデザインされている。
「それは・・・!」
有希は思わず声を上げる。彼は胸ポケットから取り出したのは、きれいに折り畳まれているが、灰色に金飾りがデザインされた封筒であった。
「なるほど……そういう意味か……」
秋人は呟く。
「お前、何を知っているんだ」
「おいおい、そう睨みつけるなって」
「それに、お前は何者なんだ? 僕の蹴りを受け止められた奴は今まで誰もいなかった。それにその封筒……」
有希がまくし立てる様子を見て、秋人は困ったように視線を宙に泳がせる。しかし、有希はまっすぐに見据える。
秋人は一瞬窓から店の外を見る。
「仕方ない……来い、教えてやるよ」
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