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黒いスーツの男の胸部を、秋人の岩のような拳が捉えた。
筋肉質の体に渾身の正拳突きが命中している。
一方、男の拳は秋人にあと数センチ届いていなかった。
男はその場に膝から崩れ落ちる。
秋人はくるりと振り返り、
「どうだい、こんな感じだ」
と、少々自慢げに有希に言った。
無表情ではあるが美しい顔のまま、有希は秋人を見ている。
「まあ、最初のうちはうまくできないだろうけど、だんだん慣れて・・・」
有希の目が見開かれる。
秋人が言葉を止めた瞬間、彼の頭上を黒い物が飛び越えた。
暗闇の中、黒い姿をしていたが、人型をしているのが分かった。
スーツの男だ。
秋人は即座に思考したが、スーツの男は有希めがけて飛びかかっている。
体の反応が追い付かない。
発声すら間に合わない。
だが、有希はスーツの男を目で追っていた。
空中からの獣のように荒々しいアスラを溜めた一撃が振り下ろされる。
有希は冷静にバックステップでかわす。
男が再び力を溜める。着地と同時に攻撃を仕掛けようとしている。
しかし、男が着地する前に、有希の足が動く。後ろに下がった時に構えをとっていた。
一歩踏み込み、男の着地した瞬間を狙って突きが放たれる。
秋人の時のような音はしなかった。ただ、足運びの僅かな音と、男の一瞬の苦しそうな声だけがした。
吹き飛んできた男を秋人は受け止める。彼の意識は無く、ぐったりとしていた。
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