第2話 学園へ

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 その日、有希は外が暗くなるまで学校で過ごし、校門が閉まると同時に家路についた。  部活があったわけでもなく、用事があったわけでもない。  ただ、家に帰りづらいのだ。  だが帰らないわけにも行かない。十六歳の高校生にお金はなく、行動に制限がある。  選択肢は思うより少ない。すぐに帰るか、ギリギリまで粘るか、である。  夜道をとぼとぼと歩きながら考えを巡らせる。  自分の家族はどこま異常だ、と気付いていた。  母親は出来のいい弟ばかりを可愛がり、有希に対しては露骨に態度や行動に表す。例えば食事の品数や量が違う。身につけているものだって弟の方が高価な物ばかりである。  父親はというと、そういった家庭の出来事には無関心な人で、とにかく仕事ばかりである。仕事を理由に面倒な事から逃げているのだ。  弟は有希同様に美しい顔立ちをしている。二人とも似ているのだが、母親曰く、有希の目は父親似で嫌なのだそうだ。  小学生の頃は何となく違和感があった程度だった。中学に入るとその違和感がはっきりとしたものへと変わっていった。今では考えるだけで憂鬱な気分にさせられる。  有希にとっては居心地が悪い空間であった。  どんなにゆっくり歩いても、いずれは家に着いてしまう。  近所の見慣れた景色は、彼にとっては不快な景色である。  大きな溜め息を吐くと、重い足を引きずるようにして家へと向かう。  気持ちを切り替える。家では母親を刺激しない振る舞いをするために、キャラクターを演じる。決して自己主張せず、不満を漏らさず、大人しく過ごすための有希という別の人物を。  こうしておけば、必要以上に傷つかない。  家の目の前に着いた時、切り替えは完了する。  その時、何かがおかしい、と感じた。  明かりが点いていない。家の中には人の気配もまったくしない。  いつもなら明かりは点いていて、有希が帰ってくると賑やかだった家の中が一瞬静まりかえるのだが。  胸騒ぎがした。  ドアを開けて玄関へと入る。  瞬間、有希は今まで嗅いだ事のない臭いがして顔をしかめた。  正体は分からないが、不快な臭い……生臭いような変な臭いがする。  嫌な予感に襲われる。何かとんでもない出来事が起こっているのではないか、と直感した。
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