一話 ガラテアというおっさん少年

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 傾けた酒に、自分の姿が映る。金髪で、長髪を後ろでまとめている少年が映っていた。顔立ちは美男子然としていて、さすがに綺麗なもんだ。女神にすら愛される顔っていうのはこういう顔だろう。こんな美男子見たことがない。とまあ、自画自賛はともかく、十二年前から一切変わらない俺の顔だ。  皺が刻まれるでもなく、年季が入るわけでもない。麗らかなままの、少年の顔だ。何度も戦い、死の淵を彷徨ってきたというのに、なんて若くて弱弱しいままなのだろうか。体つきだってそうだ。筋肉は付いているとはいえ、良くも悪くも歳相応でしかない。変わらない肉体。変わらない俺の時間。だが世界の時計は進んでばかりだ。 「分かってるのは、呪印のデメリットだけか。お前――あとどれくらいの命なんだ?」 「さあな、医者じゃないから分からん。だが短命と考えると、今くたばってもおかしくねえだろう」  不老の呪印は時を止める。永遠の美貌とやらが手に入る。だが、その代償として短命になるらしい。燃え盛る蝋燭の火が蝋を溶かすように、所有者の命をあっという間に溶かし尽くす。  蝋俺の命はもう、僅かばかりしか残っていないのだろう。それがいつ尽きるのか。こればかりは、天のみぞ知るってやつだがな。まったく、厄介なもんを貰っちまったもんだ。  だが、焦りもしないし怯えもしない。だからこうして、この時を、一瞬を楽しく生きるのだ。ああ、今日飲む酒は、とても味わい深い。
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