一話 ガラテアというおっさん少年

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 アダンを宥め、三人で酒の杯を打ち鳴らして乾杯し、その日の美酒を味わった。 「姫がいなくなったって聞いたが?」 「ああ、噂が広まるのは早いな。あれは単に姫様が勝手に城下に遊びにいっただけで、もう戻られているよ。いつものことさ。過保護な大臣が過剰に騒ぎ立てるから、そんな噂が立つのだ」  アダンは傭兵ではあったが、ラヴィニアの将軍に気に入られてよく城に赴いている。俺たちよりも城内の噂には詳しい。結果、面白みのない答えが返ってきたもんだ。ま、姫の誘拐なんて、そうそうあるわけないか。  互いの話に笑いあいながら夜も深まってきた頃、酒場の客も少しばかり静かになってきていた。変わらず騒いでいるのは俺達くらいのものだろう。店主も大欠伸をしており、そろそろお開きかと考えていた矢先、俺の耳が妙な音を聞いた。  歩く音、靴の音だ。道を歩いているわけじゃない。上から確かに聞こえるってことは、酒場の屋根を誰かが歩いているってことだ。連続して聞こえていたそれは、やがてピタリと止み、一切の物音がしなくなったのだが、俺とすれば嫌な予感しかしない。  考えるより先に、大きな物音が屋根から響いた。振動で天井の埃が勢いよく酒場の客に降り注ぎ、むせる客の注意が天上へと向けられた。さすがに屋根に誰かいると全員が察したようで、店主になにごとかと目で訴えるものが多いが、店主は視線を上げたまま反応を示さない。ハルキオとアダンも奇異な目を天上に向けていた。
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