2人が本棚に入れています
本棚に追加
「屋根の上でなにしてんだろうな?」
「ろくなことじゃないさ」
「私もそう思う」
もう一度大きく屋根が軋んだ瞬間、轟音と共に屋根が抜けて、ハルキオの目の前に女の子が落下してきた。ローブを身に纏っているが小柄で、落ちた衝撃でフードが取れた顔は美しく整っており、白金の髪は細く絹糸のようだ。カウンター席に落下してきた彼女は体を起こしてハルキオと目が合うと、状況を飲み込めていない両者は硬直している。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ?」
ハルキオが引きつった笑みを浮かべて言えば、美少女も微笑み返した。なにを暢気な、と俺が二人を見返せば、アダンが席から立って少女の顔を難しい顔で見つめる。
「姫様?」
「誰? 私を知っているの?」
少女が目を見開き身を仰け反らせる。アダンがさらになにか言おうとしたところで、酒場の扉が勢いよく開いた。ガラの悪い男が数人入ってくると、威嚇するように周囲を睨む。遅れて鼻から上を白い仮面で覆った怪しげな細身の男が入店する。
「こんばんは」
薄気味の悪い男が笑むと、少女が酷く怯えたように身を縮ませる。その様子を見て、思った。ああ、これはきっと巻き込まれる。そしてそれは途轍もなく悪いことに違いない。ハルキオに目を向ければ、俺と視線を合わせて口を縛っている。俺達は共に、嫌な気配を感じ取っていた。
最初のコメントを投稿しよう!