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「どうした? 怖くて声も出せねえか? 今なら謝れば許してやるぜ?」
「言うことがいちいち小物臭ぇ。もうちょっと大物感出せねえのか? こっちだって気分ってもんがあるんだがね」
「ふざけんじゃねえ!」
男が剣を振りかざす。そんな大振りで何をするつもりだ? 隙しかない。俺ならこの瞬間だけで三度は殺せる。だが、流血沙汰になれば酒どころじゃなくなるからな。
俺は難しくない、最も平和的に収まることをした。大振りに構えた男に向かって、一歩前に出ただけ。男の目の前に、目と鼻の先まで近づく。ただそれだけ。それだけで男は剣を振れなくなった。当然だ。斬る前に腕が当たって刃なんて届かない。
「て、テメェ!」
後ろに下がったのを見て、俺は初めて剣を抜く。そうして隙だらけの男の首もとに剣を突き付けると、男は動きをピタリと止めた。
「う、お……!? な、何者だテメェ?」
「誰かって? ガキだろうがよ。お前の目から見たのが俺の正体さ」
男が剣を落とし、両手を挙げて負けを認めた。剣を鞘に納め、席へと戻れば、店主が果実酒を用意して待っていてくれた。カウンター席に座ると、俺はそれを呑んで喉を鳴らす。喉の奥が熱い。酒はこうでなければ。
猿面もすごすごと仲間らしい男らの元へと戻った。周りの酒飲みに俺が何者かを聞き込みしている様子も窺えた。男のことなんて聞き込んでなにが楽しんだかな。そんな様子を眺めていると、俺の傍にくせっ毛頭の、大柄な男が腰を下す。
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