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翌朝、私はもずくの散歩に行きたがる声で目が覚めた。
「んー……もう朝かぁ……」
寝室の扉の外からは、扉を爪でカリカリと引っ掻く音が聞こえる。
もずくが寝室に入りたがっているのだ。
私は起き上がり、部屋の扉を開けるためにベッドから下りようとした。
そこでようやく、私の左手が甲斐の手でがっちりホールドされていることに気付く。
「……」
そうだ。
昨夜、私は甲斐と一夜を共にしてしまったのだ。
昨夜は欲望のままに抱かれることを望んでしまったけれど、今冷静になると私は最低なことをしてしまったのだと思い知る。
遥希と別れてから、ずっと寂しくて欲求不満だった。
だから私は、甲斐の優しさに甘えてしまったのだ。
甲斐もきっと同情で抱いてくれたに違いない。
甲斐を起こさないように絡まった指をほどこうとしたけれど、結局甲斐は目を覚ましてしまった。
「……おはよ、七瀬」
「お、おはよう……」
ほどきかけた指が、また絡まり繋がる。
どことなく恋人同士のような甘い空気が流れ始めたことに、私は混乱してしまった。
「甲斐、ちょっと……手、離してもらってもいい?」
「何で?」
そのとき、扉の外にいるもずくがいよいよしびれを切らしたのか、ワンッと大きく吠えた。
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