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「依織って、ちょっと変わってるよな」
「え……」
「好きなら結婚したいと思うのが普通なんじゃないの?……それとも、俺がおかしいのかな」
「違うよ……遥希はおかしいこと言ってない」
もう少しで三十代に突入するというのに、同棲している恋人がいながらも未だに結婚願望を抱くことが出来ない私がおかしいのだと思う。
そのせいで、今遥希が私に対して失望していることもちゃんとわかっている。
それでも、自分の結婚観を変えるのは、そう簡単なことではないのだ。
「……ごめんね」
遥希を悲しませたくないのに、それしか言えない自分がもどかしくて情けない。
「別にいいよ。でも今すぐじゃなくていいから、少しは考えておいて」
「うん……」
「じゃあ俺、先に寝るわ。おやすみ」
「おやすみなさい……」
リビングに一人残された私は、深い溜め息をつき宙を見上げた。
好きだから一緒にいる。
それだけではダメなのだろうか。
恋も仕事も家事も、全部うまくやっていきたい。
それは、欲張りなのだろうか。
遥希といつから身体を重ねていないだろう。
目を瞑り、何日前にSEXしたかを思い出してみる。
大丈夫、記憶の糸を辿ればまだどうにか思い出せる。
……私たちは、まだ大丈夫だ。
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