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私は生まれた。そして死んだ。
日本という国に生を受け、名前も与えられた。親から愛情の印として長い懊悩の末つけられた私の識別記号は86年の歳月を経てなお色褪せることはなかった。
私の人生は、別に華やかでも羨望に満ちた眼を向けられていたわけでもない。しかし子供、孫、ひいては数年しか会えなかったが曾孫の顔も拝めた。この地球に生きる生物としてこれ以上の幸せはないかもしれない。楽しい人生だった。いろんなことも学んだ。
しかし、私の生涯についてこれ以上伝える気はない。
ところで、前述したように私はすでに死んでいる。なぜそんな人間が、支給されるエネルギーもなく考える脳すら失ったはずの生物がこうして誰かに話すことを許されているのだろうか。
私が生きていた頃聞いた、根拠も信憑性もない話が本当ならば、私の今の状態をすべて説明できる。
すなわち――あの世があると。
私が伝えたいのはそう、私がすべて思い出したという、そんな話だ。
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