気になる木になる

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 他の街路樹の鳥小屋にはハートマークはついていないのだ。かといって鳥小屋自体は特別な品ではなく、他の木のものと同じ作りであるように見える。  なのになぜあの鳥小屋にはハートマークがついているのか、と一度気になりだしてから興味が尽きることはなかった。可能性としては何か特別な鳥が居ついていて鳥マニアが熱視線を送っていることがあるが、見ている限りは変わった鳥が出入りするところを見たことが無い。せいぜいがキジバトくらいだ。  ――あのハートマークは誰からの、何に対する思いなのだろう。  残念ながら今日もまたその答えは分からなかった。  学校についてから午後になるまで特別なことはなかった。  午後、緊急で全校集会が開かれた。内容としては誰もが顔も知らない後輩君が長い入院生活の果てに本日午前中に亡くなったというものだった。顔も知らないというのは比喩でもなく、誰にとっても本当のことだ。何せ後輩君は入学してから一度も学校に顔を出すことができなかったのだから。  痛ましく、気の毒なことだと思った。だが今日通夜があるからクラスメイトは参加するようにとの通知については、いったい何の意味があるのだろうとも思った。 顔も知らず、一緒に学生生活を過ごしたかもしれない、その可能性だけを共有した存在を見送るって、どんな顔して参加すればいいんだろう。可能性だけで言えば、地球上のあらゆる同世代にそれは当てはまるのだ。後輩君は籍が――席があっただけ近かったけれど、それだけだ。  ――親御さんも辛いだけじゃないかな。  私はそんなことを考えながらその集会を終えた。  アカリはそんな私の横で涙を流していた。後から聞いてみたけど、知り合いだったわけではなく、同世代の人間が亡くなるという事実がただ悲しかったんだって。そんなものかな。  帰り道、病院前のバス停に降り立ち、私は空を見上げた。  いつものように鳥小屋にハートマークが……なかった。あれ、見間違いかな、と思い今一度見てみたけれどやはり無い。特別、が消える条件は経験上二つある。一つは持ち主の興味の消失。もう一つは対象もしくは持ち主の死去。  思わず後輩君のことを連想したけれど、すぐに振り払った。そんなことないって。偶然偶然。ただ、興味が失せただけだろう。  気になっていた特別の持ち主が死去したという可能性を、私は不思議なことに受け入れることができなかった。
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