気になる木になる

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 家に帰って改めて今日の出来事を振り返ってみたが、今までに経験したような「特別」なイベントはなかったように思う。  あのカレンダーのハートマークは一体なんだったんだろう。  ただのイベントフラグの誤作動だったんだろうか。だとしたらなんて迷惑な力なのだろう。予知した内容が分からないばかりか、そもそも予知自体間違うのであれば、本気でこの能力の必要性が分からなくなる。  大きなため息をついて学校の制服から私服に着替えると、さらに一つ昨日までと異なることを発見した。 「あれ……マフラーのハートマークが消えてる」  私が作るマフラーは市販では手に入らないためか、ありがたいことにどのマフラーにも特別な想いを抱いてくれる人が一定数居るのだが、その中でも一際濃い色を発していたハートマークが完全に消えていたのだった。  もしかして、と思って過去のマフラーをすべて引っ張り出してきて確認してみたが、予想通りいずれのマフラーも誰かの特別の痕跡が綺麗に消えていた。  どのマフラーに対しても特別に興味を示してくれていたから、これは間違いなく私を好きな人間の間接的な特別だろう、と今か今かと告白を待ちわび続けてきたが――すべてが跡形もなく消えるというのは十中八九持ち主が死去したに違いない。  反応に困りながら、私はひとまず冥福を祈ることにした。  アーメン。  結局この日は家でも最後まで気を抜かずに過ごしたのだが、木の鳥小屋とマフラーから特別が消えたこと以外は、別段特別なことは何も起きなかった。  私はもやもやする想いを抱えながら床につき、惰眠をむさぼった。その結果、翌日にはもう気にならないレベルになっていた。睡眠は偉大だ。  しかし、この日の特別が何であったかは偶然にもすぐに分かった。  それは、4日後の26日の下校時のことだった。  かつて鳥小屋にハートマークがついていた街路樹の傍に立っていた生気が無い女性が例の鳥小屋を熱心に眺めていたので、私は思わず聞いてしまったのだ。 「あの鳥小屋には何か変わった鳥が居るんですか?」  その女性は憂いを帯びた微笑みを私に向けて言った。 「分かりません。この木には虹色の綺麗な羽根を持つ、とてもかわいい鳥が居ると息子が生前言っていたのですが、残念ながらまだ見つけられていないのです。毎日喜んで見ていたので嘘ではないと思うのですが……」
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