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背筋が緊張するのが分かった。
「虹色の翼って、存在するんですか?」
「分かりません。どの図鑑を見ても虹色の翼の鳥は居なかったのですけれど、あの病室の窓から息子が双眼鏡で向けていた視線はいつもこの鳥小屋を向いていたようだったので、居るのだと思います」
女性が指を差したのはバス停から道路を挟んで向かいに立つ病院の六階の窓だった。……あの窓から鳥小屋を見れば必然的にバス停に立っている人も視界に入るだろう。
「ちなみに、その鳥は毎日同じ翼の色をしていたと言っていましたか?」
「……? いいえ、確か虹色の前の日が赤色で、その前の日が青色だと言っていた気がしますが」
「そうですか……」
私は笑顔を返すので精いっぱいだった。
20日は赤色、21日は青色、そして22日は虹色。どれも22日の午後に一斉に特別が消えた私のマフラーの色と合致する。
そして、開かれた緊急全校集会。
「すみません。こんなことを聞くのは非常識だと思うですが、生前ということは、息子さんは亡くなってしまったんですか?」
「ええ……四日前に持病で逝ってしまったの。一度も通えなかったけど、あなたと同じ学校に在籍はしていたのよ」
その一言で、不意に私の瞳から涙がこぼれそうになった。
なんだこれ、なんの感情だ。
顔も知らない相手の死は悲しくないんじゃなかったのか。
それに、マフラーや鳥小屋の特別と後輩君の死が関連している可能性だってうすうす勘付いていたことじゃないか。
何をいまさら――。
「あなた、とてもかわいらしいわね。その緑色のマフラーもよく似合っているわ。あの子が生きていたら、あなたみたいな子を好きになっていたのかしら。――ああ、あの子、恋も知らずに逝ってしまったのね……」
「~~――ごめんなさいっ!」
耐えられなかった。私は女性に背を向けて帰路を全力で走った。
ああ、泣き顔をあの女性に見られてしまっただろうか。見せてはいけないはずだったのに。顔も知らない私が、後輩君の死を悼んでいることを知られてはいけなかったはずなのに。
女性の最後の一言は、きっと私に向いていない独り言だ。
だけど。だけどさ、そうじゃないんだ。私は知っているんだ。
後輩君は恋をしていた。私だけは、それを知っているんだ。
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