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出会い
狭山には見えなくてはいいものが見えてしまう、霊感があった。それはかなり鋭く、道を歩いている時にぶつかりそうになる人は大体この世の人間ではないのである。
狭山は一人だ。家族もいない、父は彼が胎児の時に逃げ 母はついこの間、男をつくり出ていった。
祖父は既に他界。唯一の親戚である祖母は1ヶ月に1回生活費を置きに来るだけだった。まだ中学生の狭山には働くこともできないので少ないお金でやりくりしている毎日だ。
身支度を済ませ家から出ると、目の前に大きな洋館が狭山の行く末を拒んだ。
「こんな洋館あったっけ…」
あったと言われればあったような、なかったと言われればなかったような、微妙な感覚が狭山を悩ませる。電車に遅れてはいけないと走り出した矢先、後から声をかけられた。
「おーい、そこの君」
狭山は振り返った。声の主は若くて眉目秀麗な青年だった。
「なっなんでしょうか」
僅かに震える声、狭山はあまり人と話すことには慣れていなかった。
「僕、一昨日から引っ越してきたばっかなんだ挨拶に行こうと思ったけど時間なくって…香山っていうんだ。よろしくね」
長い足を少し折り曲げ狭山に手を差し出した香山という男。狭山はその手を取り握手をした、軽く握るだけの。異様に冷たい手だった。
「あっそうだ。こんなのでよかったら…」
男が手に持っていたのは「ざびえる」と書いたお菓子の袋だった。
「ありがとう…ございます…」
狭山はそれを貰うと頭を下げ、踵を返そうとした、しかし
「君の、名前は?」
少し口角を上げ異様に開いた目が狭山の恐怖を煽った。
「さっ…狭山です」
「狭山くんか…いい名前だね!」
狭山は頭を下げた後逃げるように去っていった。
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