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言って、ドサリと籐の椅子にもたれかかる。いまはやりの環境に配慮というやつなのか、エアコンの入っていない店内はやや暑い。長袖シャツの袖を捲る碧生に対して、橙真はストールと首の間に指を入れて煩わしそうに眉をしかめるだけだった。
「暑くないですか。それ、取ったほうが」
「……取れないの、知ってるくせに」
恨みがましい目でボソリと言う。すぐに察した。ストールを外さないのも袖を捲らないのも、そこに見られては面白くないものがあるからだ。すみません、と頭を下げる碧生に対して橙真はふんと鼻を鳴らす。気まずい空気が、漂っていた。それを打ち壊すように先ほどとは別の女性店員がトレイを片手にやってくる。
「お待たせしましたー。アイスコーヒーと、アイスアップルティーです。サンドイッチは、こちらのお客様ですねー。ガムシロとミルク、お好きにお使いくださぁーい」
飲み物を反対に置かれた。碧生の前にはアイスコーヒー。橙真の前にはアイスティーとポーションシロップの入ったかご。仕方ない、碧生が店員だとしてもこう置いただろう。ごゆっくりどうぞーと甲高い声で残して、店員は去っていった。お互い一口ずつ喉を潤してから、――先に口を開いたのは碧生だった。
「その。……痛くないんですか」
「あは、単刀直入だねー」
橙真はカラカラ笑うとアイスコーヒーをブラックのまま啜る。人は外見によらないという言葉をこんなところで実感した。
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